G20財務相・中央銀行総裁会議;日本の異常な中国非難

(1) 会議全体の流れ
(2) 中国人民銀行の周小川総裁の説明
(3) 中国の経済政策に要望と言えることは
(4) IMF専務理事の意見「先進国に新産業育成策がない問題」
(5) 共同声明から読み取れる本音
(6) FTとロイターの報道ではG20は中国政策を支持し激励
(7) 日本の異常な中国非難

※敬称略 ◆は参照報道、①〜はその要点

………(1) 会議全体の流れ………

G20財務相中央銀行総裁会議がトルコのアンカラで行われ閉幕した。中国経済の減速とアメリカが検討している利上げが世界経済に及ぼすリスクが中心議題。

その日本報道は異様で「名指しはしなかったが中国を批判し透明化と構造改革を要求」といった印象操作をしている。
《読売》G20国家が中国に構造改革の強烈な圧力を加えた。
《産経》G20会議の上で先進国は強烈に中国に構造改革を要求し、中国のバブル崩壊が世界に与えたリスクを非難し、中国に自国経済が世界経済のリスクであることを認めさせた。

《朝日》「「不確実性を緩和し、透明性を向上させる」と明記したのも中国政府を視野に入れたメッセージとも読み取れます」 ・・・日本財務省の受け売り。IMF専務理事は中国の経済政策とその公開性を高く評価。問題にされたのは米国のFRB

これは日本マスコミが麻生太郎随行し、日本政府の説明を鵜呑みして、取材を怠ったことが原因だ。外国記者からそれを問われ、麻生が「日本だけが批判しているわけではない」と苦しい弁明をした。

中国人民銀行の周小川総裁は丁寧かつ率直に報告している。(人民日報)(環球時報
(1) 高度成長から持続可能な中速成長へと切り替える段階で、蓄積されていた影の金融などを清算した
(2) 投機的資金は輸出産業投資から不動産投資に、更に株式市場に逃げ込み、3月から6月の間に株価を7割もバブルさせ、同時にレバレッジ率が著しく上昇し危険水準となった
(3) 投機的バブルを退治するために、6月から8月まで3回の調整を実施した。3回目の調整は世界同時株安と乱高下を発生させた
(4) 経済システムのリスクを回避するため、中国政府は一連の政策・措置を取り、これには人民銀がさまざまなルートで市場に流動性を提供することも含まれていた
(5) 株式市場の暴落や体系的リスクの発生は抑制された。レバレッジ率は劇的に低下し、実体経済へは目立った影響を与えていない
(6) 人民元レート基準値の見直しも徐々に行い、対ドルレートは約4割元高に推移した。この値は、経済実態の差を反映し、名目GDPと購買力平価GDPの著しい差異を緩和し、適正水準になった
(7) しかし、株バブル退治でのシステムリスク回避に行った巨額の流動性注入などが原因で人民元は3%ほど度値下がりした
(8) だが中国経済の基本的な側面に実質的な変化はなく、対外貿易は引き続き巨額の黒字を維持しており、人民元に長期的な値下がりの基盤はなく、値下がりも是正された
(9) 人民元の対米ドルレートは安定に向かい、株式市場の調整もおおよそ実施済みで、さらに安定に向かう見込みだ
(10) 金融市場に一連の変動が生じても、改革を深化させようという中国政府の決意には変化がなく、引き続き秩序をもって各種の改革を進めていく。

そして、ファイナンシャル・タイムス(FT)は「中国政府は丁寧に説明し、G20各国から経済政策の支持を取り付けた」と報道した。

ロイターもIMF専務理事の「中国は経済構造のリフォームという極めて困難な事業にも拘わらず尊敬に値するもので、十分に開示され議論にも応じている。中国の経済政策を支持する」を紹介し、麻生だけが「中国政府の失政で世界は大損した」と非難している。同調する国は無いと報道。

麻生の放言を聞き、それに迎合する日本の記者を見て欧米が激怒している;(環球時報
・米《ブルームバーグ
麻生はG20で孤立し、気まずい思いをしたであろう。
・独《ジュートドイッチェ・ツァイトゥング》
麻生の中国政府非難はその他の国の代表団を怒らせた。
ドイツ代表団「麻生は世界経済を大混乱させようとした」、
EU代表団「“戦争の亡魂が復活”したかのような“嫌味な公演”だ。中国は6%〜7%成長、日本はマイナス成長だ、よくもまあ中国を非難できるものだ」
サウジアラビア中央銀行総裁「中国の経済構造改革は非常に評価すべきもので、またその改革の苦しみを率直に開示し助言を求める姿勢には頭が下がる。中国の構造改革を全面的に支持する。そして一帯一路経済ベルト建設に共に邁進しようではないか」
・豪《金融評論新聞》
日本の麻生太郎副首相兼財務大臣は中国を“被告席”に着かせようと試みたが、孤立したのは麻生だった。そして麻生は中国ではなく、自分が孤立したこともわかりたくないようだ。
・英《ロイター通信》
G20財経首脳が中国の構造改革の苦しみを認識し協調する共通認識に達したことが麻生はお気に召さないらしい。
・英《FT》
中国の進める経済構造改革は広範な国際支持を得た。麻生は潔く認めるべきだ。

構造改革の要求】は中国に向けられたのではない。むしろ中国の経済政策を支持し、世界同時株安は米国の利上げによる投機筋の狼狽であり、その背景には、日本などが産業を育成する政策を見いだせず金融緩和だけで放置している状態が投資家を不安にさせているとみている。

【金融政策の透明性向上や市場との対話要求】も中国向けとは言いがたい。各種の経済統計が時に誇張され時には操作されて政治的に発表される米国がやり玉にあがったと見ることもできる。

そもそも株式暴落は、この1年間で膨大な投機資金が日米のゼロ金利と超金融緩和で各国に流入して起こしたバブルが、FRBの利上げ観測と、中国の中速度成長への切り替えで投機筋が狼狽売りをしたと言える。FRBは利上げを回避できないだろうが、途上国から米国投資が引き上げない対策が要求された。

………(2) 中国人民銀行の周小川総裁の説明………

◆二十国集团承诺推动全球经济入轨 周小川楼继伟称中国续改革开放(環球時報
http://finance.huanqiu.com/zcjd/2015-09/7420921.html
◆人民銀総裁「元の対ドルレートや株式市場は安定に向かっている」(人民日報)
http://j.people.com.cn/n/2015/0906/c94476-8946182.html
(内容は前述)

………(3) 中国の経済政策に要望と言えることは………

(1) 中速経済成長への転換で、投機バブルの処置をしているが、それが「一帯一路」経済ベルト建設の速度を遅らさぬように努力願いたい

(2) 投機筋を退場させ、中長期投資家を保護する方針が声明で述べられたが、早く具体化して欲しい。投資家は自分が退場させられるのか、それとも保護されるのかわからず疑心暗鬼になるからだ。

………(4) IMF専務理事の意見が支配した「先進国に新産業育成策がない問題」………

G20蔵相・中央銀行総裁会議を欧米はほとんど報道していない。米国はサウジ国王とイラン制裁解除問題、欧州は難民問題で一色。日本だけが「中国掣肘」のチャンスと意気込んだが、BRICSも欧米も乗ってこないどころか、「一帯一路」に世界経済が縋りきっている事態を露呈しただけだった。

G20はIMF専務理事の意見が支配した「ゼロ金利も超金融緩和も世界経済を救わない。日本を代表に新たな産業を振興させる政策が先進国に皆無だからだ。中国の「一帯一路」経済ベルト建設だけが唯一の壮大な希望だ。それはユーラシア大陸全体の経済を活性化させ、中国の内需経済化を促進する」

………(5) 共同声明から読み取れる本音………

➊世界の経済成長を回復させる断固たる行動
世界規模の具体策は中国が推進する「一帯一路」経済ベルト建設しかない。中国経済を「中成長」に移行させる政策と「一帯一路」経済ベルト建設を両立させることに各国が協力

➋一部先進国の金融引き締めの可能性は要注意
米国FRBの利上げは論理的に回避しにくい。かといって、上海市バブル崩壊のような身勝手な利上げ阻止策は不確実性を増し、不透明感を蔓延させる悪質なデマの結果だ。FRBは各国に正確な事前説明を行うべきだ。

➌通貨切り下げ競争を回避、保護主義に対抗
日本の切り下げは40%にも達し世界に多大の迷惑。日本政府は自国企業の海外投資を阻害するな。
中国元は40%上がった。ドルと日円に対して適正水準になった。日本のような人為的通貨切り下げ競争をするな。

➍経済成長と雇用創出に財政政策
ゼロ金利や超金融緩和で経済は成長しないことが明白になった。新規産業の育成が不十分なのだ。日本でそれが顕著である。先進国は新規産業の育成政策を具体化し挑戦すべきだ。中国は一帯一路と言う壮大な産業政策を開始しており、全世界が期待している。

❺不確実性を緩和するコミュニケーション
米国の利上げは、同国の経済発展から、当然のことだ。しかしながら、ゼロ金利政策と超金融緩和によって投機資金が膨らみ世界を不安定にしている。米国が利上げすれば、発展国に投資された米国投資が逃げ出す。米国は各国と十分に調整すべきだ。

※透明性を高めても安定しない
➊「8月の米国失業率は前月比0・2ポイント低下して5.1%まで改善した。ところが投資家は期待外れだとNYダウは大幅に下落。他方で、論理的に利上げは回避できないとする見方もある。

➋その原因は先進国が金融超緩和を続け、大部分が投機資金に化けて市場実態からかけ離れた乱高下を発生させていることにある。中国の投機資金退治は正しい。ドイツもリーマンショック後投機規正を強化したが、その国際化に米英日が猛反発し、安倍と黒田が人類史上空前の博打を行っている。

………(6) FTとロイターの報道ではG20は中国政策を支持し激励………

◆China gets support for economic policy as G20 accepts it is managing a difficult economic transition(FT) http://on.ft.com/1NUxvy9
①G20財務相中央銀行総裁会議がトルコのアンカラで行われ閉幕した。上海株式市場の暴落を機に世界同時株安となり、その不安に怯える各国だが、今回のG20で中国政府は同国の経済政策に対する支持を取り付けることに成功した。

G20 eyes faster economic reforms as cheap credit not enough for growth (Reuters)
http://www.reuters.com/article/2015/09/05/us-g20-turkey-idUSKCN0R50QL20150905
①ゼロ金利や超金融緩和で経済は成長しないことが明白になった。新規産業の育成が不十分なのだ。日本でそれが顕著である。先進国は新規産業の育成政策を具体化し挑戦すべきだ。中国は一帯一路と言う壮大な産業政策を開始しており、全世界が期待している。
IMF専務理事「中国の経済政策は経済構造のリフォームという極めて困難な事業にも拘わらず尊敬に値するもので、そして十分に開示され議論にも応じている。中国の経済政策を支持する」
③麻生だけが「中国政府の失政による中国市場の暴落で世界は大損した」と中国を非難しているが、同調する国は無い。
④米国の利上げは、同国の安定した経済発展から、当然のことである。しかしながら、ゼロ金利政策と超金融緩和によって投機資金が膨らみ世界を不安定にしている。米国が利上げすれば、発展国に投資された米国投資が逃げ出す恐れが強い。米国は各国と十分に調整すべきだ。

◆日本财相厚颜唱衰中国经济 美媒称其是G20上孤家寡人(環球時報
http://world.huanqiu.com/exclusive/2015-09/7426723.html
(内容は前述)


………(7) 日本の異常な中国非難………

◆G20、中国に改革促す 声明採択「経済回復へ行動」(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/ASH957DNHH95UHBI02L.html
①中国の減速をきっかけとする世界的な金融市場の動揺について、具体的な協調策は打ち出せなかった
②市場の混乱の発端とみなされた中国に対し、日本など各国から要望が相次いだ。過剰な生産設備など経済の構造的な問題について改革を求めた
③中国の人民元切り下げを念頭に、「通貨の競争的な切り下げを回避する」と述べ、通貨安競争が広がらないように戒めた

◆G20:中国に構造改革要求 世界金融安定化図る(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150906k0000m020094000c.html?inb=tw
◆G20閉幕:市場安定化遠く 株安収束に不透明感(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150906k0000m020095000c.html?inb=tw
【G20共同声明の骨子】
➊世界の経済成長を回復させる断固行動
➋一部先進国の金融引締の可能性は要注意
➌通貨切下競争を回避、保護主義に対抗
➍経済成長と雇用創出に財政政策
❺不確実性を緩和するコミュニケーション

◆「普通の国ではない市場介入」 麻生財務相中国当局を批判(共同)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015090501001805.html?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
①(G20)財務相中央銀行総裁会議後の記者会見で、上海株式市場の乱高下をめぐる中国当局の対応を「普通の国ではないような市場介入だった」と批判した。G20共同声明に盛り込まれた金融政策の透明性向上や市場との対話を進めるよう求めた。
◆中国に世界が関心=影響力の自覚を−麻生財務相(時事)
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco&k=2015090600010&utm_source=twitter&utm_medium=jijicom&utm_campaign=twitter
①「中国に対して発言した国について『幾つもあった』と述べ、日本の厳しい姿勢が突出しているわけではない」と弁明した。

構造改革の必要性で一致 G20共同声明採択し閉幕(テレ朝)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000058186.html
①会議の最大の成果は、中国経済バブル崩壊構造改革の必要性を確認したことです。ただ、中国を名指して共同声明に明記することはありませんでした。
◆中国焦点のG20閉幕 共同声明「透明性向上を」(テレ朝)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000058197.html
①今回のG20は、冒頭で中国が自ら経済の現状や政策の説明をするなど異例の展開。共同声明でも、金融政策をはじめ主要な政策をする際は「不確実性を緩和し、透明性を向上させる」と明記したのも中国政府を視野に入れたメッセージとも読み取れます。
②来年のG20はその中国が議長国です。自らの経済構造改革に取り組むのはもとより、各国の意見をまとめる力が問われることになりそうです。

◆G20閉幕 中国経済と米の利上げに懸念(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150906/k10010217801000.html
①声明では、名指しはしないものの世界同時株安の発端となった中国経済の減速と、アメリカが検討している利上げが世界経済に及ぼすリスクについて懸念を示しました
中国経済の減速やそれに伴う世界同時株安などの金融市場の動揺で、世界経済に不透明感が強まっていることへの警戒感を表明
③「通貨安競争」をしないことを明記し、先月、通貨・人民元の基準値を相次いで引き下げた中国をけん制
アメリカの金融緩和と中国の高い成長が転換点を迎えるなか、米中両国の政策転換が世界経済に及ぼすリスクに懸念を示す形となりました。