朝日がやっと安倍自民党による言論弾圧を批判する社説

今日の二本の社説はいずれも安倍自民党による言論封殺を論破している。ここで朝日が安倍自民に屈服したら、1936年の2.26軍事クーデター時と同じ状況になる。翌年、中国侵略が日中総力戦争へと急拡大され、3千万人を殺し、3百万人が死んで、9年後に連合国(米中英豪蘭など)に無条件降伏。

第一の社説は、福島瑞穂議員が4月1日の参院予算委員会集団的自衛権の行使可能にする関連法案集を「戦争法案」と批判したことが、「不適切言辞」だから修正か削除せよと要求したことである [1]。

福島氏は「安倍内閣が、14本から18本以上の『戦争法案』を出すと言われている。集団的自衛権の行使や後方支援という名のもとに、戦場の隣で武器弾薬を提供することを認めようとしている」と述べ、安倍首相は「レッテルを貼って議論を矮小化していくことは断じて甘受できない」と反論した。

安倍は「集団的自衛権の行使を可能にする自衛隊法等の改正」がなぜ「戦争法案」ではないのか説明できない。本人は「既に散々説明した、それで理解せぬ輩など無視して構わない」と思っているのだろう。

「戦争法案」という語は小渕内閣時代などから国会で何度も使用されてきた。自民党内閣は「戦争をする、戦争に巻き込まれる法律改正ではない」と一応の説得を国会で試みてきたが、安倍内閣自民党は全く異なる上から目線のタカ派ぶりを隠そうともしない。

朝日社説は、自民党の堀井巌・予算委理事が福島氏に「戦争法案」表現の修正を要求したことが憲法違反であると断じた。全ての国民を代表する議員が国会で自由に議論することは民主主義の根幹。故に、「国会議員の国会内での発言は、国会の外で責任は問われないと憲法は定めている」からだ。

「これまで議員発言が議事録から削除・修正されたことはあるが、国会の権威や人権を傷つけたような場合が通例」でありそれには該当しない。なぜなら、「福島氏の発言は、集団的自衛権についての強引な解釈改憲に基づく法整備への、国民の根強い懸念を代弁している」のだから。

戦前の日本政府も中国侵略戦争を「事変」と称して、「戦争状態」という野党と国際連盟などを無視した。安倍政権も米軍や豪軍やイスラエル軍に弾薬や食料を支給し、兵士を戦場に輸送する「兵站」を「後方支援」だと詭弁を弄している。最初から議論が激突することをかわしているのだ。

「政権側に異論があるなら、議場で反論し、そのまま記録に残せばいい。その是非判断は、の国民だけができる」のだから。「多数派の意に沿わない発言だから、修正させようというのは、『数の力』を背景にした『言論の封殺』」だ。それは、1935年(昭和10年)の天皇機関説事件を思い出させる。

・・・貴族院本会議で菊池武夫議員(陸軍中将・在郷軍人)が、美濃部達吉議員(東京帝大名誉教授・帝国学士院会員議員)の天皇機関説を『緩慢なる謀叛であり、明らかなる叛逆になる。国体に背く学説である』とし、美濃部を「学匪」「謀叛人」と非難した。
菊池議員は天皇を神聖視する陸軍幹部であり、また、右翼団体の国本社とも関係があった。議会外では右翼団体在郷軍人会が上げた抗議の怒号。だが、機関説とは何たるかすら理解しない者も多く、「畏れ多くも天皇陛下を機関車・機関銃に喩えるとは何事か」と激昂する者まで。
政府は、議会終了後に美濃部を取調べることを警察に指示、出版法違反を理由に美濃部議員の著書『憲法撮要』『逐条憲法精義』『日本国憲法ノ基本主義』の3冊を発禁処分とした。また文部省は「国体明徴訓令」を発し、統治権の主体が天皇に存することを明示し、天皇機関説の教授を禁じた。
美濃部議員は不敬罪で告発され、検事局で取調べを受けたが、起訴猶予処分となり、議員辞職したが、翌年、美濃部は右翼暴漢に銃撃され重傷を負っている。(Wikipedia天皇機関説事件)
天皇機関説とは、大日本帝国憲法下で確立された憲法学説で、統治権は法人たる国家にあり、天皇はその最高機関として統治権を行使すると説いたものである。国家法人説に基づき、憲法学者美濃部達吉らが主張した学説で、天皇主権説(穂積八束上杉慎吉ら)と対立。(Wikipedia天皇機関説

・・・今も、安倍の天皇まがいを称揚し反対者を殺せとヘイトデモましている。安倍晋三首相の憲法観は根本的に誤っている。天皇憲法の関係を逆転解釈したのが穂積八束上杉慎吉ら極右学者であったが、内閣総理大臣憲法の関係を逆転解釈する安倍晋三内閣総理大臣である。戦前以上に恐ろしい。

朝日社説の結び・・・憲法によって権力の暴走を防ぐ「立憲主義」について、首相は国会で「王権が絶対権力を持っていた時代の考え方」であり、まるで権力を縛るなど時代錯誤だと言わんばかりだった。
しかし、最近の安倍首相ら政権側の言動はどうだろうか。沖縄県知事らの意向などお構いなしの普天間飛行場移設の強硬姿勢 [3]。個別の報道番組への口出し。そして今回の議員発言への修正要求である。自らと異なる立場に対する敬意や尊重などかけらもない。「絶対権力」の振る舞いと見まごうばかりである。

…………

第一の社説で言及された「個別の報道番組への口出し」が第二の社説「放送法 権力者の道具ではない」[2]で民主主義の根幹を破壊する権力の乱用だと論破されている。

テレビ朝日報道ステーション」とNHK「クローズアップ現代」で事実ではないことが放送されたとして、自民党情報通信戦略調査会が、両局の幹部を呼んで事情聴取をした。この行動は政権与党による報道への政治介入であり、権力の乱用である。

放送法第1条は「放送が国民に効用をもたらすことを保障し、表現の自由を確保し、健全な民主主義の発達に資する」目的をうたい、第3条は番組編集の自由を保障。放送法は政治権力が放送局を縛る道具ではないからだ。

自民党は「放送法に照らして」と説明し、放送法第4条「報道は事実をまげないですること」を盾に介入した。しかし、憲法放送法の精神からは、誤った報道をしたり、伝え方に問題があった場合、自らの責任で訂正する、そうした営みは、あくまで放送局の自律した判断に委ねられるべきである。

自民党は、さらに干渉を強めかねない。NHKと民放各社でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構BPO)」を政府が関与するかたちに変えようとの発言も出ている。

BPOは、報道被害を受けた民間人からの番組への苦情や指摘を受けて、有識者が審議する仕組みだ。再発防止計画を出させ、検証番組の放送を求めることもある。議論の過程や決定、放送局の対応を公表しており、放送界の自律的な審査機関として機能している。

放送法を恣意的に解釈変更し、BPOから自立性を奪う政府介入を常態化しようとする「自民党の動きは、テレビから、国民の自律的な言論や表現の仕組みを奪い、そこに政権政党の意向を働かせる。多様で自由な表現を保障する民主主義の本質的な価値を損ねる。権力の乱用だ」。(朝日社説)

この自民党TV報道介入事件でも、戦前における朝日新聞社襲撃事件を思い出させる
・・・天皇機関説事件は軍を統制派と皇道派に二分し、1932年に海軍若手将校らが五・一五事件を起こし、首相官邸内閣総理大臣犬養毅を殺害した。
更に、1936年には陸軍若手将校らが、「昭和維新断行・尊皇討奸」を掲げて、二・二六事件という軍事クーデターを起こし、元老と首相を襲撃し、鈴木貫太郎侍従長、斎藤實内大臣高橋是清大蔵大臣、渡辺錠太郎陸軍教育総監を殺した。
さらに、二・二六軍事クーデター部隊は『東京朝日新聞を占拠』し、幹部と社員を人質にとって立て籠もった。これ以後、朝日新聞はリベラル色を完全に捨て、軍の統制派による政権掌握と中国侵略戦争の片棒を担ぐ存在に成り下がっていった。

今の朝日新聞とテレ朝は、軍事クーデターの代わりの役割を果たす自民党内の日本会議系「マスコミ監視委員会」に屈服し、経団連企業系による広告の一斉中止に怯え、殆ど全ての政権政策批判色を投げ出してしまった。

安倍晋三が支配するニッポンは1936年の2.26事件の深刻さを阿部定事件に熱狂させてもみ消し、1937年には中産階級が銀座に繰り出し奢侈を競い、美味なグルメにうつつ、ヘレンケラーに感激醒めやらぬ一夜にして、南京大虐殺で提灯行列が全国津々浦々、にそっくりであると辺見庸氏 [4]。

2014年に発足した第2次安倍改造内閣では、閣僚19人のうち15人が日本会議国会議員懇談会のメンバーを占めた。日本会議は、戦前の軍国主義を称揚し、それを再興すべく行動する日本最大最強の右翼集団とNYTなどが断じている。その日本会議の活動は、憲法改正要綱の作成普及、自虐的・反国家的教科書の撲滅、日教組撲滅、民主的教育委員会廃止、国旗国歌強制、自衛隊法の改正、靖国参拝運動、男女平等反対など(Wikipedia日本会議

かって自民党「情報通信戦略調査会」の前身が安倍晋三や故中川昭一らを中心に、マスコミ監視を分担し、報道されると疑問や異論を投げつけ回答要求。その回答内容にまた疑問や異論を投げかけ、そのやり取りで報道現場が麻痺する。裁判に訴える他、TV局には放送法の許認可権を盾に脅している [4]。

(参照)
[1](社説)言論の府で 異論への異常な圧力(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715473.html?ref=pcviewer
[2](社説)放送法 権力者の道具ではない(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715468.html?ref=pcviewer
[3](時時刻刻)沖縄、政権へ厳しい視線 内閣支持率28% 朝日新聞社世論調査(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715564.html?ref=pcviewer
[4] だからその存在は『違憲』なのだ(辺見庸 週刊金曜日、2.27号/Sukiyakisong日記)
http://d.hatena.ne.jp/SukiyakiSong/20150325/1427293906
[5] 古賀茂明氏(テレ朝「報ステ」)とCarsten Germis氏(Frankfuter Allgemaine Zeitung)に対する弾圧(SukiyakiSongの日記)
http://d.hatena.ne.jp/SukiyakiSong/20150418/1429356297