G20財務相・中央銀行総裁会議の影の主役はAIIB

G20財務相中央銀行総裁会議は17日に2日間の会議を終えワシントンで閉幕した。今年のG20議長国は米国。米国が議題の選定も仕切るから、中国主導の『一帯一路』シルクロードも『AIIB』アジアインフラ投資銀行も議題には取り上げなかったが・・・

(1) 影の主役はAIIBだった
AIIB歓迎の声が英国などからも上がった。オズボーン財務相は『新興勢力と組む英国の良き伝統』と胸を張り、IMFのラガルド専務理事も『協力が期待できる国際金融機関だ』と称賛。アジアやアフリカの新興国や途上国もワシントンで、次々に歓迎声明。[1]

16日にはG20に先立って、新興国など24カ国の「G24」が会合を持ち、AIIBを支持する共同声明を発表した。その熱い視線は、手詰まりが目立つ既存体制への不満の表れ。その中で各国をひきつけるのが、中国が提唱し、AIIBの目玉事業になる「二つのシルクロード経済圏」構想だ。[2][3][4][5]

(2) 中国が提唱する「一帯一路」への熱い眼差し
アジアから欧州へ至る「陸」と「海」の二つの道となるように、各種インフラを整備する構想 [2][3] は5年間に400兆円という膨大な投資予測。AIIBに参加した57カ国の多くはこの沿線。中国台頭への警戒感よりも、提案される商機に魅力。[5]

ニュージーランドのグローサー貿易相は『中国の台頭から目を背けたり、押さえ込んだりしようとするのは愚かな考えだ。中国は世界2位の経済大国。良くも悪くも世界の構造は変化する』と、第二次世界大戦後の米国主導の世界経済の枠組みが変更を迫られていることを指摘した。また、グローサー貿易相は『中国は外貨を豊富に保有しているとして(AIIBへの参加がゼロでも)中国は単独で設立した可能性※がある。世界銀行などとの補完関係を築くためにも民主主義国の関与が望ましい』とも述べた。[9]

※中国の外貨準備は300兆円を超える。それに加えて、中国国内での融資が峠を超えた余裕をAIIBプロジェクトにふり向けると中国銀行や中国商工銀行など数行が表明し、その融資枠は200兆円とも言われている。数日前には、日本の三菱などメガバンクも中国財務部などにAIIBプロジェクトへの融資について申し込みをしている。

WHOが発表した2014年の世界貿易統計が中国の実力を示している。中国が米国を抜き世界一。日本の貿易額の3倍(中国の輸出は日本の4倍、輸入額は2.5倍)と巨大。日本経済は物価影響を除外した実質GDPでも中国の4割、IMF購買力平価GDPでは中国の2割強でしかなくなった。
貿易額の1位は中国4兆3030億$(約515兆円)、2位は米国4兆0320億$。3位はドイツ1兆8982億$、4位が日本1兆5060億$。
中国の輸出は前年比6%増の2兆3430億$で、1兆6230億$の米国を大きく引き離して首位。日本は4%減の6840億$。
中国の輸入は前年比1%増の1兆9600億$で、米国に次いで2位だった。日本は1%減の8220億$。[10]
※2014年GDP;国連が発表した『名目GDP』では1位米国17兆4189億$、2位中国10兆3804億$、3位日本4兆6163億$、4位ドイツ3兆8596億$だったが、
IMFが発表した『購買力平価GDP』では、1位中国17兆6173億$、2位米国17兆4189億$、3位インド7兆3759億$、4位日本4兆7507億$と米中が逆転し、日本はインドにも抜かれた。
・・・これが世界の流れである。

(3) IMF怨嗟で四面楚歌、IMF改革を拒否する米議会
オバマ大統領は『世界経済は中国などではなく米国がこれからも指導してゆかねばならない。(TPPが妥結しなければアジア市場で)中国が中国人労働者や中国企業に有利なルールを設定するだろう』と訴え、中国への対抗意識をむき出しにした。米議会では「オバマ大統領にTPP交渉の全権委任をする大統領貿易促進権限法案」が提出された。日本政府内では「AIIBは運営体制が不透明なうえ、出資金の負担を考えれば参加メリットは乏しい」との見方が根強い。麻生太郎財務相も記者会見で『AIIBがノウハウを持っているとは言い難い』と、融資能力に疑問を表明・・・しかし「そうした意見は少数派だった」。世界1、2位の経済大国がせめぎ合う中で、3位の日本は両大国間で翻弄されている。[1]

強い批判を受けたのは、米国が原因で宙に浮いたままのIMF改革。中国など新興国の出資比率を引き上げ、新興国の発言力を強める改革案が2010年にIMFで承認されたものの、唯一の拒否権を持つ米議会の反対で頓挫したままだ。米議会では、台頭する中国への警戒感などから、野党・共和党を中心にIMF改革への反発が根強い [5]。ルー氏は『(議会がIMF改革を承認すれば)米国が主導的役割を果たしていくという強いメッセージになる。そうでなければ、中国を含む他国が前面に出てくる』と米議会を牽制 [8]。

なんとか状況を打開しようと、IMFは6月までに改革の「つなぎ策」をつくる [6]。出資比率の見直しだけを先行させ、米議会が反対しても可能にする案などだが、その場合でも米国政府を承認させる必要があり、「米国がのむのは難しい」(IMF関係者)という見方が多い。ロシアのシルアノフ財務相は『米議会を通ると楽観できる根拠は見あたらない』から『米国抜きで改革』を進める手法を主張。[5]

G20財務相中央銀行総裁会議の共同声明では「(米国に)引き続き深い失望。IMF改革が最優先課題なのだ」と明記され [1]、中国人民銀行中央銀行)の周小川総裁は『加盟国は挫折感を味わっている』と米国を批判 [6]。こうした不満がAIIB設立の追い風になっている。

『米国抜き方式』が公然と語られるまでに事態は進んでいる [5]。米国は、中国の「一帯一路・AIIB・シルクロード基金」[11] に追い詰められたのだ。

(4) 米国政府を勇気づける中国の余裕
G20財務相中央銀行総裁会議は、米国に対して『新興国への配慮が乏しい』と新興国の不満が噴出し [5]、経済成長を背景に影響力を増す中国と、守勢に回る米国の構図が鮮明になった。米国と歩調を合わせる日本も難しい立場に追い込まれた [1]。

ルー米財務長官は『この数日間、世界は米国の指導力に期待しているという声を何度も聞いた。改革強化されたIMFは、戦略的、経済的にも米国の国益にかなう』と訴えるのが精いっぱいだった [5]。

ルー長官は3月28日から3日間、北京を訪問し李克強首相と会談している。ルー米財務長官は『中国指導部がAIIBを既存機関と連携させ、その教訓を学ぶ強い意欲を示したことに勇気づけられた。AIIBが意思決定や高い融資基準を国際社会と共有するなら、米国はAIIBを歓迎する用意がある』[8]と述べ、李克強首相は『新興国の発言権拡大と人民元を特別引き出し権(SDR)通貨に追加するIMF改革提案を米議会が早期承認すべきだ』[7]と忠告している。

中国の朱光耀財政次官は『AIIBは(IMFなど既存機関の)補完的な役割を果たす。世界銀行など米国主導の国際金融体制に挑戦する意図はない』と冷静に強調した [11]。G20の共同声明はAIIBには直接触れなかった。それでも「中国の当局者には余裕すら漂って」いた。[1]

……(参照報道)……
[1] G20:閉幕…アジア投資銀が陰の主役 米は守勢(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150419k0000m020107000c.html
[2] 若者に希望与える夢空間;一帯一路(環球時報/SukiyakiSong日記)
http://d.hatena.ne.jp/SukiyakiSong/20150331/1427808940
[3] ボアオ・アジアフォーラム開幕
http://d.hatena.ne.jp/SukiyakiSong/20150328/1427548545
[4] アジアインフラ投資銀行(AIIB)創始国46
http://d.hatena.ne.jp/SukiyakiSong/20150328/1427483300
[5] G20、米への不満噴出 IMF改革停滞で新興国 「米国抜き改革案」も(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11712607.html?ref=pcviewer
[6] 中銀総裁「IMF改革進展は挫折感を生んでいる」(CRI北京放送)
http://japanese.cri.cn/881/2015/04/19/301s235282.htm
[7] 米財務長官「アジア投資銀を歓迎」 透明性で中国側に注文 李首相と会談(日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM30H5J_Q5A330C1FF8000/?dg=1
[8] アジア投資銀:「世銀並み」基準要求…米ルー財務長官、中国に(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150401k0000e020237000c.html
[9] ニュージーランド: グローサー貿易相「中国台頭に目背けるのは愚か(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150419k0000m030042000c.html
[10] 中国:貿易額515兆円で14年も世界一 日本4位、WTO発表(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150415k0000m020145000c.html
[11] AIIBは博打ローンを捨て、金融資産を全世界に合理的に再配分する(環球時報/SukiyakiSong日記)
http://d.hatena.ne.jp/SukiyakiSong/20150417/1429209193