関電の高浜原発再稼働審査の合格を差し止める福井地裁判決

【関電の高浜原発再稼働審査の合格を差し止める福井地裁判決】
http://d.hatena.ne.jp/SukiyakiSong/20150416/1429129288

樋口裁判長は昨年5月、関電大飯原発3、4号機の再稼働反対訴訟で、「具体的な危険性が万一にもあれば、人格権が侵害される」と認めた差し止めを命じる判決。しかし関電が控訴したので、再稼働は可能で、上級審での判決確定までに数年かかると、実質的な効力に乏しい。

そこで住民は昨年12月、より法的な即効力がある「仮処分」―原子力規制委員会による新基準合格判定の差し止め―を大飯、高浜両原発に求めて訴えた。樋口裁判長は規制委の審査が終わって知事の同意などがあれば再稼働できる状態にある高浜原発を優先して仮処分を命じた。

「仮処分」は法的拘束力が判決時に即時効力する。関電が再度福井地裁に異議を申し立て、更に上告審まで上がるだろう。しかし今度は、再稼働の適法性が最終的に「確定する」判決がでるまで「仮処分」は効力を発揮し、関電は再稼働できない。

関電と経産省幹部の態度は『裁判官が替わる高裁なら覆せる』・・・しかしながら判決確定まで何年かかるか判らない。

※関電など電気事業者は「耐震性の余裕がまだある」と主張し、規制委員会もそれを認める。だが装置の強度は、➊予想される最大ガル数を設定し、➋安全係数を被害の重大性を考慮して設計され、樋口裁判長はその両方について関電と規制委員会の行動には合理性がなく重大危険を排除できないとした。

電力会社が予想した最大ガル数は根拠薄弱で、たびたび実際の地震がそれを上回った。30年前には250ガルを最大地震動と設定して原子炉本体の強度に設計・施行したが、2005年からの10年間ですら、国内20の原発のうち4原発で実際の地震動が想定最大ガル数を超えたのだ。

それらの地震動も原発建屋の各階で測定されたもので、原発敷地内ではそれを遥かに上回る地震動が柏崎刈羽原発女川原発で観測された。さらに、原発敷地外での地震を見ると、10倍から20倍ものガル数すら記録されている。想定最大ガル数「基準地震動」の設定は全く信用できない。

原発耐震強度を設計するときの「安全係数」にも問題がある。安全係数は発生した場合の重大性に応じて大きく設定すべきである。安全係数は、被害軽微で短時間復旧の事故でも1.5、被害甚大のときは2.0、人命に影響を及ぼす場合は3.0以上というように設定すべきである。

しかし、宮城県沖の地震に襲われた女川原発では基準地震動の1.5倍程度で破損した。安全係数3.0などではなく、普通の構造物と同じ安全係数しか持っていないと推定される。

もっと問題は、緊急冷却用の配管やバルブやポンプや計測制御やその電源などの原子炉格納容器の外か原発建屋外にある接続部に、地震動の何倍もの応力が掛かる可能性が考慮されていないことである。

新潟県中越地震に襲われた柏崎刈羽原発の原子炉建屋は500ガル前後だったが、冷却水パイプが接続されているタービン棟は2000ガルと4倍の差があった。仮に1000ガルに堪える耐震性に改造しても、冷却配管やバルブを駆動する空気か油圧かの配管にはその数倍の応力が集中するだろう。

北太平洋地震に襲われた福島第一でも原子炉建屋内は600ガル程度であったが、冷却水配管などが接続されているタービン棟は3000ガルに達した。そのため、津波が襲う前に、原子炉の冷却配管やその駆動配管などが破損していたという声も聞かれる。

原発の絶対安全は、原子炉建屋内だけでなく、構内のあらゆる装置が3000ガルに堪える強度を持たないと保証できない。横着なJR経営陣のように、「事故の予防措置よりも事故保険のほうが安価」と考えることと同じ考えで関電や九電が再稼働を急ぐのなら計画的犯罪性すら感じる。


(参照報道)
◆高浜再稼働認めず 即時差し止め、初の仮処分 福井地裁「新基準、合理性欠く」(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11705410.html?ref=nmail_20150415mo&ref=pcviewpage
◆「新基準、合理性欠く」高浜原発差し止め仮処分決定要旨全文(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/ASH4G5DGYH4GPTIL02C.html?iref=reca
①樋口裁判長;以下の「現実的で切迫した危険」があると認定し、再稼働禁止を命じる仮処分を決定。
・「関電側の主張は、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しにすぎない」。
・「原発再稼働の可否を決める新規制基準は、緩やかにすぎ、合理性を欠き、新基準を満たしても安全性は確保されない」―高浜だけでなく、原子力規制委員会の新基準の見直しを要求。

②高浜原発は、基準地震動370ガルで設計され稼働したが、関電は安全余裕があるとの理由で根本的な耐震補強工事がなされないまま、基準地震動だけが550ガルから700ガルへと引き上げられた。この対応は社会的に許容できることではないし、関電のいう安全設計思想と相いれない。
※仮に、当初の設計が「安全係数2.5」の強度であるなら、高浜の計算上の耐震性は925ガルである。基準地震動だけが700ガルに上げられたということは、現在の安全係数(関電のいう安全余裕)は1.32へと、1/5に減っている。

③基準地震動(耐震設計で想定する最大の揺れ)を超す地震に2005年以降だけでも福島第一など4原発が5回襲われている。日本に立地する20原発中4原発の多さである。
・日本列島は四つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が我が国の国土で発生し、日本国内に地震の空白地帯は存在しない。
・各地の原発敷地外に幾たびか到来した激しい地震や各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい楽観的見通しにしかすぎない。
・基準地震動を超える地震はあってはならず、想定そのものが信頼性を失っており、関西電力の本件原発地震想定だけが信頼に値するという根拠は見いだせない。
 2005年8月 <宮城県沖の地震女川原発
   07年3月 <能登半島地震志賀原発
   07年7月 <新潟県中越沖地震柏崎刈羽原発2058ガル
   11年3月 <東日本大震災福島第一原発女川原発2000ガル以上(地震計振り切れ)
 ※原発外での最大
 2004年<新潟県中越地震>2516ガル
 2008年<岩手・宮城内陸地震>4277ガル
 2011年<東北地方太平洋沖地震>2933ガル

④さらに、高浜原発では、基準地震動である700ガル未満の地震によっても
・外部電源が断たれて給水ポンプが止まり、原子炉の冷却機能が失われ、炉心損傷に至る可能性がある。多重防護という堅固さは無く、貧弱である。
使用済み核燃料プールは原子炉のように堅固な施設に囲われていない
―など

⑤使用済み核燃料は我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性があるのに、
・格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められていない。
使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性もBクラスである。
使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え、国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。

⑥被保全債権について
―高浜原発の脆弱さは、以下の条件を満たさない限り解消されない。
(1) 基準地震動の策定基準を見直し、基準地震動を大幅に引き上げ、それに応じた根本的な耐震工事を原子炉本体に実施する。
(2) 外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする。
・使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む
使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにする
使用済み核燃料プールに係る計測装置の耐震性をSクラスにする
・免震重要棟を完成させる
地震の際の事態把握が困難なことは、使用済み核燃料プールを遠隔から監視し必要な事故防止操作を行いうるためにも、その計測装置の耐震性がSクラスであることの必要性を基礎付ける。
また、中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険時に、これが無ければ、逃げ出すほかに無く、事故の拡大を防げない。その設置は予定されてはいるが、規制委員会は猶予期間を認めている。地震が人間の計画、意図とは全く無関係に起こるものである以上、かような規制方法に合理性はない。
・新規制基準もその運用も合理性を欠き、住民らの人格権が侵害される危険性
1992年10月29日、伊方最高裁判決は、原発設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると新規制基準に求めている。
しかるに、新規制基準は上記のとおり、緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。そうである以上、その新規制基準に本件原発施設が適合するか否かについて判断するまでもなく住民らが「人格権」を侵害される具体的危険性すなわち被保全債権の存在が認められる。

保全の必要性
・本件原発の事故によって住民らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じることになり、本案訴訟の結論を待つ余裕がなく、また、規制委の設置変更許可がなされた現時点においては、保全(規制委員会による再稼働許可の仮差し押え)の必要性も認められる。