人肉食い戦争から「終戦」詔勅(玉音放送)

(1) 人肉食い―大岡昇平「レイテ戦記」
(2) 「1937」辺見庸週刊金曜日
(3) 玉音放送堀田善衛「上海にて」
(4) 「終戦詔勅玉音放送)全文

………(1) 人肉食い―大岡昇平「レイテ戦記」………

大岡昇平は「レイテ戦記」で、食料が尽きた日本兵がジャングルと農村の間を彷徨し、山中に追い詰められると『人肉食い』のやむなきに至った。軍指揮官の無能な倒錯によって、兵士に魔界が出現したのだと、赤裸々にその状態を記述している。

しかし、大著「レイテ戦記」の大部分は克明なる日本軍の行動記録であり、そこだけを読めば「全く不利な条件下で日本軍かく戦へり」と感じさせる。そして結言でも「日米両軍はよく戦った」となる。大変な違和感。

「人肉を食らった兵士の肌に艶が戻る、光って見える」といった「魔界」を出現させた日本政治と日本軍の官僚制の悪魔や、それに順応し悪魔の先兵になっても、悪意のなさで平然としていられる日本人という存在の恐ろしさに迫ることが無かったからだ。

武田泰淳の「ひかりごけ」は、大岡昇平が書いた「魔界」に順応した日本兵の戦後の精神破綻を描いているように見える。だが、抽象的というか幻想に包まれて、その正体はついに明らかにはされなかった。

NHKは、兵站が途絶えて、食料調達に現地住民を襲いに行き、はぐれて帰隊が遅れた兵士を、銃殺にした証言や、人肉食いの証言を集めた特集を報道していた。証言者は皆否定しない。しかし、自分は関係ないが、やられるのは見たと、一様に言う。

真実を言えば何が彼らに起こるのだろうか。精神病理の深みはないが、現実的な圧迫を想像させる証言はある。それは戦後も生き続けた「連隊団結」とそれを維持する制度のなせるわざである。戦後も全ての元兵隊は元連隊長や元師団長やその参謀たちに支配され続けたのだ。

元連隊長や元師団長は軍人恩給の支給の是非とその金額決定権を握っていたから、連帯に不名誉な実話の表明を厳格にタブー化していたのだ。逸脱すれば恩給は支給されない。連隊長や師団長に戦後も忠実であれば恩給額は増加する制度を悪用したのだ。それもNHKは特集で証言を集めていた。

恩給をもらうために、より高額の恩給を得るために、元兵士は日章旗を祝日に掲げ、靖国参拝を行い、元連隊長に報告する。そうやって元兵士は、中国人の大量虐殺も人肉食いも自分を「被害者」としてしか見なくなり、ついには「戦時は異常時だから、当たり前」と正当化して、何事もなしにする。

日本兵の残虐行為は一部の異常な兵隊のなした犯罪ではない。ほとんどの日本兵が命じられて、中国の反抗的な農民を杭に縛り、刺突実習の道具にしたのだ。中国人は劣等人種、日本人は神の子供と囁きが通奏低音になれば、精神は平静に憑依してしまう。恐ろしいまでに大規模な舞台装置が神の国ニッポン。

私は、日本人の残虐性を「騎馬民族の末裔ゆえ」と言ってきたが、それは騎馬民族から土着農耕民族に変化した日本人の習性の半分に過ぎず、残虐行為に苦しむ心を神憑りの憑依によって、無かったことにする心の平安という日本独特の舞台装置が無ければ全体として成立しない民族の性質と今は思う。

日本独特の舞台装置は、日本人に残る騎馬民族の残虐性を蘇らせるためであり、かつまた農耕民族化したゆえの罪悪感を憑依によって何事も無き精神状態にするものと定義できる。その舞台装置を考え設営した日本人は騎馬民族の影響が色濃く残る人たちだったのだろう。


………(2) 辺見庸さんの連載「1937」週刊金曜日………

辺見庸さんの連載「1937」週刊金曜日も連載が25回。その22回に;
①「皇軍」古年兵による新兵への陰湿かつ執拗な殴打と侮辱は判で押したようにどの部隊でも・・・「皇軍」とは悪魔的によくできた組織。中国と戦争するよりさきに、人間の尊厳と個我を徹底的に叩き潰し・・・

②(日本兵はインテリであっても)あれだけの侵略戦争(と残虐行為)をまるで「自然災害」のようにかたり、自分をその「被害者」であるかのように無意識的におもってしまっている。完璧なまでの悪意の無さ。無邪気にも似た口吻。不気味なイノセンス・・・

③「皇軍」がつかまえたゲリラや「抗日分子」を殺さずに釈放したなどという例は聞いたことも読んだこともない。・・・拷問の末に虐殺されたか、軍刀の試し切りや新兵の刺突訓練の「材料」にされたか・・・そのとき父はどこにいて、どのような動作をし、どんな発声をしたのか・・・殺ったのだろう

④1975年10月31日、天皇の記者会見;
(問)また陛下は、いわゆる戦争責任について、どのようにお考えになっておられますか
天皇)そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究もしていないで、よくわかりませから、そういう問題についてお答えができかねます。

茨木のり子「四海波静」
戦争責任を問われて その人は言った そういう言葉のアヤについて 文学方面はあまり研究していないので お答えできかねます
三十年に一つのとてつもないブラック・ユーモアざらしの髑髏さえ カタカタカタと笑ったのに 野次一つ飛ばず どこへ行ったか散じたか
思わず笑いが込みあげて どす黒い笑い吐血のように 噴き上げては 止まり また噴きあげる(茨木のり子

昭和天皇による戦争責任の誤魔化しと国民への責任転嫁は、現在の安倍晋三の言動と瓜二つである
・・・戦争はくる(辺見庸


………(3) 玉音放送堀田善衛「上海にて」………

◆【堀田善衛「上海にて」】1959年ちくま学芸文庫
国民党の実態も酷いものであったが、米国も劣らずエゴ丸出しで偽善者ぶっていた。国民党支配下の上海1945〜49、「米国は過剰生産で捨てる製品を洪水のように救援物資として運び込んで、上海の土着企業をことごとく倒産させた。それを中国人は“救済され過ぎて昇天した”と」p82
これでは、蒋介石がいくら清廉であるとしても、国民党が支持されるはずも無かった。国民党はサイゴンから追い出された米国のように、上海から海に追い落とされて台湾に逃げるほかなかった。自業自得である。(しかし周恩来は、国民党は敵であるが、蒋介石には一定の尊敬の念があった)

そのとき日本は……上海で聞いた8.15天皇放送「天皇はなんと挨拶したか。負けたとも降伏したとも言わぬ。『遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス』、という、嫌味な二重否定、それっきりであった」

「その薄情さ加減、エゴイズム。放送が終わると、私は何という奴だ、何という挨拶だ、お前の言うことはそれっきりか、それで事が済むと思っているのか、という、怒りとも悲しみともなんともつかぬものに身がふるえた」p112

「弁解とか、戦争の正当化とか、通り一遍の詫び言などというのではなくて、正確な一言」を言わないから、戦争は永久に清算されず、人間同士の交わりも皮相なものが続くだろう。双方にとって非常な不幸である。p113(それが、今また、精神的不幸の度合いを増している)

「あれから14年。あの放送を聞いて怒りだしたという人には、会ったことがなかった」p113
昭和天皇裕仁は極めて政治的かつ軍事オタクなる人物で、国体護持をソ連が認めてくれるなら、満州の日本軍と開拓民を自由に使役していいと提案。

彼はまた極端な反共主義者で、軍部の独走の危険性を知りながら、ソ連共産党が日本社会に革命をもたらすことを恐れて、関東軍の陰謀を事後承認した。戦後は反共でマッカーサーにすり寄り、日本人は餓鬼同然の知性しかないから、米軍は永久に日本に駐留して監視して欲しいと安保条約をダレスに提案。

※現在の天皇昭和天皇は親子とは思えないほどの違いがあるようだ。そして、安倍晋三のなんと似ていることか。

◆戦犯リストから消えた「天皇」=米国追随と共産化防止−蒋介石が早期決定・中国(時事)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2015080200070&utm_source=twitter&utm_medium=jijicom&utm_campaign=twitter
中華民国・国民政府が作成した日本人戦犯リストのトップに「日皇裕仁」(昭和天皇)が掲げられたが、終戦直後の9月のリストからは消えていた。『共産主義の拡大防止』が理由。米スタンフォード大学に保管される「蒋介石日記」でも同年10月下旬、「日本戦争犯罪人を既に裁定した」。

昭和天皇蒋介石支持を」=国連代表権問題、佐藤首相に促す−日米文書で判明(時事)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201507/2015073000706&kn=1
①1971年6月、台湾の中華民国が国連から追放される直前に、昭和天皇が佐藤首相に「日本政府がしっかりと蒋介石を支持する」ように伝えていた。

昭和天皇反共主義者であり、その態度によってマッカーサーに戦犯指定を解除させたと言われてきたが、蒋介石を支援し恩義を売ることによって、中華民国に戦犯指定を解除させたこととあいまって、昭和天皇の頑迷な反共ぶりがうかがわれる証拠文書。


………(4) 終戦詔勅玉音放送)全文………

玉音放送の原盤公開、昭和天皇4分30秒の肉声(TBS)
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2553534.html

原発爆発被曝や千兆円国債や3百兆円国家予算に象徴される『責任転嫁』の元祖のようで白々しいが、少々怒りを込めて意訳してみた。

➊『曩ニ米英二國ニ宣戰セル所以モ亦實ニ帝國ノ自存ト東亞ノ安定トヲ庶幾スルニ出テ他國ノ主權ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固ヨリ朕カ志ニアラス』

……「米英に宣戦布告したのは東アジア諸国を欧米植民地の搾取から救わんがためであった」
……都合の良い言い逃れ、中国との戦争はその存在すら認めていない。

➋『戰局必スシモ好轉セス世界ノ大勢亦我ニ利アラス加之敵ハ新ニ殘虐ナル爆彈ヲ使用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ慘害ノ及フ所眞ニ測ルヘカラサルニ至ル』

……米英戦4年、中国との戦争12年に及んだが、7年前から中国戦線が膠着し、3年前からは敗戦に次ぐ敗戦で玉砕の連鎖。そうなった原因は「国民の意識と努力が十分ではなかった。その上、米国が空襲と原爆で民間人を無差別殺戮しはじめた」と、米国も非難。

➌『而モ尚交戰ヲ繼續セムカ終ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招來スルノミナラス延テ人類ノ文明ヲモ破却スヘシ斯ノ如クムハ朕何ヲ以テカ億兆ノ赤子ヲ保シ皇祖皇宗ノ神靈ニ謝セムヤ是レ朕カ帝國政府ヲシテ共同宣言ニ應セシムルニ至レル所以ナリ』

……「国民が戦争継続を要求し、さらに継続するなら、日本民族は滅亡まで戦うだろうし、日本民族の力は人類文明をも破滅させかねない。そうなったら、自分は代々の天皇の御霊にどのように謝罪したらよいのか?」
……アジアや国民への謝罪を露骨に拒否し、靖国で国民洗脳した犯罪を隠す。

➍『朕ハ帝國ト共ニ終始東亞ノ解放ニ協力セル諸盟邦ニ對シ遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス帝國臣民ニシテ戰陣ニ死シ職域ニ殉シ非命ニ斃レタル者及其ノ遺族ニ想ヲ致セハ五内爲ニ裂ク且戰傷ヲ負ヒ災禍ヲ蒙リ家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ朕ノ深ク軫念スル所ナリ』

……「東アジアの解放戦争に協力してくれた同盟諸国には遺憾の意を表する。日本国民の戦死者、公務殉職者、戦災被害者を悼み、遺族、戦傷者、家財職業喪失者の再起を祈念する」
……莫大な数の中国やフィリピン国民が虐殺されたことには謝罪も無い。

➎『惟フニ今後帝國ノ受クヘキ苦難ハ固ヨリ尋常ニアラス爾臣民ノ衷情モ朕善ク之ヲ知ル然レトモ朕ハ時運ノ趨ク所堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ開カムト欲ス』

……「最後まで戦い抜きたいと言うお前たち国民の本心を私はよく理解している。しかしながら、私は時の巡り合せに逆らわず、堪えがたくまた忍びがたい思いを乗り越えて、未来永劫のために平和な世界を切り開こうと思うのである」
……戦争継続責任も国民に責任転嫁して逃げた。

➏『朕ハ茲ニ國體ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚シ常ニ爾臣民ト共ニ在リ若シ夫レ情ノ激スル所濫ニ事端ヲ滋クシ或ハ同胞排擠互ニ時局ヲ亂リ爲ニ大道ヲ誤リ信義ヲ世界ニ失フカ如キハ朕最モ之ヲ戒ム』

……「国体が護持されるなら自分と国民は共に過ごすことができる。だから、欧米に反抗したり、共産主義に国を乗っ取らせようとする輩を出現させないよう、お前たちも心せよ」。

➐『宜シク擧國一家子孫相傳ヘ確ク神州ノ不滅ヲ信シ任重クシテ道遠キヲ念ヒ總力ヲ將來ノ建設ニ傾ケ道義ヲ篤クシ志操ヲ鞏クシ誓テ國體ノ精華ヲ發揚シ世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ爾臣民其レ克ク朕カ意ヲ體セヨ』

……【国民への命令】「神州は不滅であると確信し、復興責任を覚悟し、総力を結集し、既に誓ってある国の姿(国体)の真髄を再び発揚できるよう、国民は私の意を体(挺)して行動せよ」。