APEC、ASEAN+、東アジアサミットの共同宣言

※敬称略 ◆は参照報道、①〜はその要点

★マニラの【APEC】
『経済格差是正と貧困撲滅によってテロの温床を消滅させる』ために、中国の「一帯一路」経済ベルト建設にアジア全域国が協力する決議

★クワラルンプールの【ASEAN中韓日】
ASEAN共同体』は年末発足、
東アジア共同体』RCEPは来年末発足、
これらは歴史に残る決議。
日米は今年12月末日に予定された『ASEAN共同体』の設立をTPPで阻止しようとしたが失敗。
それだけではない、ASEAN共同体と中印日韓豪NZ16国を包括する『東アジア共同体RCEP』を来年末までに成立させることが決議された。

★クワラルンプールの【東アジアサミット】
『“南中国海における行動宣言”の具体化と早期締結を促す決議』。
この決議は2002年から中越が協議を続け、トンキン湾北部紛争を解決した成果を拡大し、西沙問題の早期解決を促し、同時に協議を拒否するフィリピンに対して“行動宣言”の遵守を促す。

このサミットだけが南中国海問題を主要議題にした。この会議は日米がASEANを利用して中国を封じこめる目的で設立されたのだから、当然ではある。当初中国にはボイコットの動きもあったが、現政権は意見の対立を隠さない方針で参加し、激論の末に、オバマが屈した。

………(補足)………
(1) 『ASEAN共同体』=今年12月31日発足
経済と政治・安保および社会文化の三制度からなる、EUと同様の集団体制を目指す。域内の関税は既に半数の国が撤廃しているが、残りの国も撤廃。企業は域内で規制を受けることなく工場建設や投資ができる。域内住民は自由往来となり、就業ビザも廃止。

(2) 『RCEP』東アジア共同体=来年12月31日発足 ASEAN共同体10国、中国、印度、日本、韓国、豪州、NZの16国構成。鳩山小沢政権が提唱した東北アジア共同体をASEAN共同体と接続させる中国の提案。安倍がその成立を邪魔したが、朴槿恵大統領の努力で共同声明に漕ぎ着けた。

(3) 『「南中国海における行動宣言」の細則の早期合意を促す決議』=東アジアサミットの共同声明
紛争国と中国の間で2002年から協議が続く「南中国海における関係国の行動宣言」の細則の早期合意を促す決議案が中国・インドネシア・NZ・米国から共同提案され、決議された。

南中国海問題は、トルコでのG20・フィリピンでのAPEC・マレーシアでのASEAN中韓日と議題にすら上がらなかった。強引に議題にすれば、共同宣言案が否決されるからだった。

マレーシアでの最後の東アジアサミットにはオバマも参加した。この会議は日米が中国封じ込めにASEANを利用する目的で開催したものであり、オバマも安倍も冒頭から李克強と激しく対立した。アキノも中国を非難したが、他の国は曖昧な態度で終始した。

オバマはTPPを乗っ取りASEAN共同体と東アジア共同体の設立を阻止しようとしたが失敗した。日米の次の戦術は中国の「一帯一路」インフラ建設を乗っ取る企みだろう。日経や朝日はその先棒を担ぐ報道を重ねている。だがTPPとは異なり「一帯一路」の中国は桁外れに巨大。

フィリピンやベトナムが本格的に日米の中国封じ込め有志連合に入るには、ASEAN共同体からの離脱を余儀なくされるだろう。両国が「一帯一路」で経済成長を保証されつつ南中国海の自国軍事基地は手放さないという外交は遠からず暗礁に乗り上げる。

オバマは、2002年から続く中国と紛争当事国との二国協議の促進を要請する「『南中国海における関係国の行動宣言』の細則の早期合意を促す決議案」という共同声明の提案国に加わるほかに会議を終息させる手立てを失った。

日米がASEANにけしかけてきた「法的強制力(経済制裁や軍事制裁)を含む南中国海の航行の自由を保障する国際協定」は拒否された。この門前払いはASEAN+首脳会議で5度5年連続している。

◆東アジアサミット「早期に行動規範」;南シナ海、批判の応酬 人工島軍事化、認識に隔たり(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12082085.html?ref=pcviewer
◆東アジアサミット「早期に行動規範」南シナ海、早期に行動規範 締結時期示せず(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12082135.html?ref=pcviewer

(4) 『南中国海における関係国の行動宣言』=2002年ASEAN首脳会議で採択。
➊関係国は平和的な交渉によって領海を定め、海洋と島の共同管理方法を研究し、オイルガスなど海洋資源の共同探査開発を行い、海洋環境保護や海洋科学研究および海上救助を進める。完全合意までには長い時間の交渉が必要であり、紛争当事国はその任に耐えることを誓う。
海上論争の最終的解決まで、双方は冷静と抑制を維持し、紛争を複雑化し拡大させるいかなる外部言動にも左右されないことを誓い、共に南中国海の平和と安定を守る。

(5)『南中国海における関係国の行動規範』=2002年の『行動宣言』に基づき、紛争国が協議をおこない、平和的に解決する協定を締結する。その協議はマレーシア、ブルネイベトナム、フィリピンと中国が個別に行い、締結された協定の集大成をもって『行動規範』としてASEANが承認する型式

南中国海には12の島と多数の環礁があるが、12の島はフィリピン5、ベトナム5、マレーシア1、台湾1と、全て中国以外が実効支配し、ブルネイ以外の三国は軍事基地を設置。

フィリピンは更に黄岩環礁に廃棄軍船を座礁させ、それを軍事基地と称して領土主張。中国は海警船で包囲し、フィリピン兵士への兵站を阻止して、孤立させた。

日本政府はハーグの常設仲裁裁判所の裁判長ポストを獲得し、日本官僚を送り込んだ。そしてフィリピンに海洋領土問題を仲裁依頼させた。フィリピンは南中国海の全海域から中国を締め出すべきだと提訴したが、日本人の裁判長は留保し、一部環礁での中菲の軍事拠点化の権利を仲裁する。

ベトナムは西沙を占領しているが、当該海域の油田の試掘権を日米企業などに売却し、掘削リグを中国と対峙させようとした。中国も対抗して掘削リグを派遣し、中越は即発事態になった。そして台湾企業がベトナムに建設していた製鉄所の社員寮が暴徒に放火され、中国人技術者が焼き殺された。

2013年6月22日に、『南中国海における関係国の行動規範』2002年を遵守する《中国とベトナム国防部の国境の警備の協力協議条約》が締結され、国境共同パトロールと両国海軍によるトンキン湾共同パトロールを決め、実績を上げ、トンキン湾北部の領土領海問題は解決した。

しかし、日米の石油企業に利権を売った西沙海域はベトナムの一存では解決できず、日米の介入を許す結果となって今日に至る。ただし、オバマが西沙の人工島を拒否する理由は同海域を遊弋する中国のミサイル原潜の偵察と追尾の自由を維持したいからだ。

今年2015年11月5日に習近平が訪越し、「一帯一路」の海のシルクロードの結節点としてベトナムにインフラ投資を行う用意がある。そして西沙問題は、トンキン湾北部で共同パトロールと共同資源探査を行いながら両国は協議を重ね、海の境界を確定させた。その成功経験によって、南中国海(西沙)問題も平和裏に領土問題を解決できるとの共通認識に達している。

※中国はベトナム国営の油田掘削公社が西側企業と結んだ共同試掘協定の破棄による損失補填の話会いに応じるだろう。その協議が決裂すると中国は「一帯一路」の対象国から外すだろう。ベトナムには無数の中国企業が工場を建設している。その建設が停止されれば、TPP関税協定にある「非TPP国からの部品4割以下」という条件を回避できなくなる。南中国海問題の協議は首脳同士の話し合いでは全く解決しない。利害関係を持つ企業や組合など無数の組織が直接協議し妥協点を見出す地道な努力が必要なのだ。その妥結には利害関係者の世代交代までの期間を要することが普通である。

(6) ASEAN諸国も結局はマハテール元首相の意見に集約されるだろう⇒
・米国が他国(日本やベトナム)にも中国に立ち向かうよう望み、中国が米国に脅かされると感じる限り、中国も軍事力を強めてゆく。これは誤った戦略だ。
・中国が大国で、豊かな国であることを受け入れる必要がある。私は中国を脅威とは思はない。日本にとって大切なのは、中国と良好な外交・貿易関係を築くことだ。中国は巨大な市場で、日本にとって大きな利点がある。
・南中国海島嶼領有問題に、米国(や日本)のように非当事国が介入し、ASEANと中国を対立させようとする動きには反対だ。我々は自分自身で対話を通じて解決できる。海洋の自由な航行に対する恐れも無い。(マハテール)

※マハテール元首相は検察から尋問され、弾圧されようとしている。ナジブ首相の汚職問題とTPP参加を批判する抗議デモに参加したからだ。