離陸できないTPP

(1) 米大統領候補は全員TPPに反対
(2) TPPへのBRICSの対応は
(3) 米大統領予備選
※敬称略 ◆は参照報道、①〜はその要点



………(1) 米大統領候補は全員TPPに反対………

◆<TPP妥結>安倍首相「人権国家とより大きな経済圏を作る」(中央日報
http://japanese.joins.com/article/634/206634.html
環太平洋経済連携協定(TPP)と東アジア包括的経済連携(RCEP)
①TPPは米国と日本が主導し、ベトナム・豪州・チリなど12カ国が参加
②RCEPは中国の主導で、韓国・インド・フィリピンなど16カ国が参加
③日本、シンガポール・マレーシアなど7カ国はTPPとRCEPの両方に参加
④発効後は経済圏域として結ばれ、それぞれ世界貿易量の30%を占める。

◆3mn Europeans sign petition against TTIP, 500,000 of whom Brits(ロイター/RT)
https://www.rt.com/uk/317888-stop-ttip-petition-european/
TTIPは米国と欧州各国の集団的貿易経済同盟でTTPのNATO版。その交渉に反対する署名が300万筆、英国だけでも50万筆に達した。反対するデモも規模を大きくしている。

◆Clinton opposes new Pacific trade pact in break with Obama(ロイター)
http://www.reuters.com/article/2015/10/08/us-usa-election-clinton-tpp-idUSKCN0S12HX20151008?feedType=RSS&feedName=topNews&utm_source=twitter
①ヒラリー大統領選立候補者は7日TPPを支持しないと反対表明した。TPPはオバマのアジア・ピボット主義を達成するための中枢であり、ヒラリーはその中央基地を排除した。

②TPP合意事項は
・通貨安政策を禁止するに不十分で不公平
・医薬品の価格を高騰させ消費者の生活を脅かす
・各国政府債務率の上限が制限されておらず、政府の破産を防止できない
・労働者を保護する規定が全くなく、逆に虐待を促進する
・気候変動対策の規定が全く存在せず、持続可能は経済同盟とは言えない

③ヒラリーはTPP反対を漸く声明した。これによって彼女に対する労働者とリベラルな人々の支持が回復することを予想する。

④ヒラリー支持者を分断し支持をふやすバイデンはTPP推進側であり、バイデンへの反撃でもある。ヒラリーは、先ごろカナダと米国の中央部を結ぶXLパイプラインの建設に反対し、気候変動対策の重視を打ち出している。これもオバマの主要経済政策である。

⑤とはいえ、労組はヒラリー支持に慎重だ。労働者やリベラル市民は社会主義者サンダースに支持を集めて、ヒラリーに迫っているからだ。サンダースは昔からTPP反対で一貫し、反対行動を盛り上げてきたから、その面で支持者が移動することはない。サンダースは「TPP反対表明を歓迎」と声明。

⑥前メリーランド州知事「支持率低下によって追い込まれた挙句のTPP反対表明だろう。8ケ月前には正反対のことを言ってオバマの政策を支えたのは自分だと言っていた。あれはどうなったのか。信頼できない」

◆Hillary Clinton’s opposition to TPP is a sign of just how worried she is about Bernie Sanders(WP)
http://www.washingtonpost.com/news/the-fix/wp/2015/10/07/hillary-clintons-opposition-to-tpp-is-a-sign-of-just-how-worried-she-is-about-bernie-sanders/?tid=sm_tw
①ヒラリーがTPP反対を声明したことは、彼女がサンダース候補に追い詰められ、当惑している証拠

②ヒラリーは2012年に言った『TPPは黄金のような標準だ。オープンで、透明性で、公平な貿易を実現させる環境であり、法による支配と競争の場の両者を兼ね備えているからだ。もし合意されるなら、TPPは世界貿易の4割をカバーし、労働者と自然環境に対する強力な保護を実現する』

③だが、TPP交渉は労働組合などの主要な市民から、雇用を外国に奪われる既視感から、猛烈に明白に反対されてきた。そして、サンダース氏は『我々に残された時間はもうない、TPP交渉を停止させ、かれらが密かに我らの利益を奪い取る算段をやめさせなければならぬ』と言った。

④大統領予備選が始まり、ヒラリーは爪先立った状態で数か月も悩み、サンダースに同調するXLパイプライン建設反対(気候変動対策)を打ち出したが、彼女の支持率は下落をやめず、ついに彼女はTPP反対に大転身して、民主党を支持する市民の支持を繋ぎ止めようとしている。

⑤ヒラリーは驚くべき速さでサンダースに追い詰められたのだ。彼は社会民主主義者であり利益の再配分による社会の安定と繁栄を主張する人であるが、その彼の主張に民主党支持者の半分が賛同しはじめたのである。

⑥ヒラリーはそれでも10%の差をサンダースに付けてはいる。フリップ・フリップのように主張を左右させるほどうろたえる必要など無かったはずだ。だから思う、ヒラリーはサンダース(社民主義者)とバイデン(労働者の味方)に挟み撃ちされた。(サンダースとバイデンの支持率はヒラリーを超える)

クリントン氏、TPP「現時点では反対」 かつては賛意(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/ASHB81S94HB8UHBI003.html
①TPPに反対を唱えるリベラル派や労働組合に配慮した発言とみられるが、クリントン氏が大統領に就任すれば、日米協議にも影響を与えそうだ。

共和党を含め他の有力候補の全てがTPP反対を表明している。
民主党内でクリントン氏に迫る勢いの最左派バーニー・サンダース上院議員が「TPPは労働者や消費者を犠牲にして巨大な多国籍企業の利益を守る、ひどい貿易協定だ」と反対姿勢

民主党の支持母体である労働組合もTPPに反対。北米自由貿易協定で米国労働者が雇用でも待遇でも打撃を受けた苦い経験に根差しているから説得は不可能だろう。

オバマ政権を支えるバイデン副大統領から支持を奪い返す意図が明白だ。ヒラリー大統領が誕生したら、TPPをめぐり、日本を含む関係国との最終合意に向けた協議で曲折も。

◆Hillary Clinton's TPP deal disapproval is 'a critical turning point'(ガーディアン)
http://www.theguardian.com/us-news/2015/oct/08/hillary-clinton-tpp-disapproval-critical-turning-point?CMP=twt_gu
ヒラリー・クリントンのTPP反対表明はオバマ政権にとって重大なるターニングポイントになった。米国大統領候補者がこれで全員反対に回ったからだ。米国は右から左までTPP反対で固まったのだ。

オバマとTPP推進派の無国政企業は300人のロビーストを動員して議会説得を試みるだろう。関税が撤廃され輸出が激増し雇用も増えると。だが労働組合はメキシコとのFTAで雇用でも賃金でも打撃を受けている最中なのだ。

③米国内に基盤をもつ産業も打撃を受ける。自動車産業や電子機器産業である。電子機器はその部品の8割を中国から輸入するか中国で組み立てているのだ。自動車もエンジンを含めて部品の50%以上が中国製だ。自動車も電子機器もTPP加盟国への輸出競争力が崩壊し、輸出は激減するだろう。

※TPPの定める関税撤廃か低関税率の特典は、使用する部品の60%以上がTPP国で製造されていなければならない。米国自動車は約55%、電子機器は80%の部品が中国製であり、それらはTPP加盟国への輸出で特恵関税を受けられなくなり、現在よりも不利になる。

④最近オバマは輸出増加よりも、米国のルールを中国に先駆けて環太平洋諸国に分配する外交戦略の効果を主張し始めた。だがTPPにそのような道理にかなうルールはない。最低賃金や作業時間などの労働者保護条項や温暖化対策としての規制はなく、他の国々が受け入れる可能性も無い。

⑤例えば、ベトナム共産党一党独裁の国である。その国が最低賃金の規制を受け入れられるはずない。むしろ競争を放置し市場にゆだねる結果賃金は下落する可能性が強い。このことは、全く立場の異なる民主党の労組と共和党新自由主義者の両者を説得できないことを予測させる。

⑥TPPは結局オバマの「アジア回帰」の二本の骨格である、経済同盟と軍事同盟の一体化によって中国の経済成長を抑え込むという、戦略の無謀さと道義的欠陥を露呈させる結果になるだろう。

◆裏切りのTPPがトドメ…自民党議員「36人」参院選で落選危機(日刊ゲンダイ
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/165396/1
自民党は野党時代の2010年に「TPP参加の即時撤回を求める会」を発足させ、選挙公約にもしているが、安倍首相の恐怖政治を前に、ただただ沈黙。

②来年7月の参院選でSEALDs(シールズ)」が、安保法案に賛成した与党議員に対し“落選運動”することを宣言している。安保法制に加えてTPPも落選運動のターゲットになる。

③TPPで打撃を受ける医師会も農協も安倍自民から離反し、創価の青年婦人部も選挙協力を拒むだろう。参院戦で野党が一定の選挙協力を実現させるなら、自民党は敗北必至。

安倍自民党は「虚言集団」に加えて「裏切り集団」になり果てた。日本社会を破壊する安倍自民は消滅すべきだ。そうしないと日本青年に未来は無い。ああいう極右政治家になってはならない、ああいう歴史改竄する偽学者になってはならない、という『反面教師』は退場だ。


………(2) TPPから排除されたBRICSの対応は………

◆TPP実現で文明間の軍事衝突に発展する恐れ(sputnik)
http://jp.sputniknews.com/business/20151006/999721.html
①TPPは経済金融連盟であるが、巨大な市場を管理する軍事政治連盟でもある
②TPPはロシアと中国等のBRICSに対して対立をもたらす

BRICSはTPPに代わるものを作り出す必要性に駆られる
④米国は唯一のパワーという覇権を守りたい。敵対は高まるだろう。遅かれ早かれ軍事的な対立に発展することを恐れ
⑤TPPが不公平であり、その態度を改める必要があると米国が気づかぬ限り、対立の軍事的局面は回避できない

⑥そうなれば、国際社会にどう訴えたところで何の助けにもならない
⑦日米豪は自分たちの政治と軍事の利益を守ろうとし、他の国に「みかじめ料」を要求し、従わなければ鼻にパンチを食らわせるだろう
⑧諦めてみかじめ料を支払うか、規則の改善を要求し続けるのか、矛盾した葛藤の時代になる。

◆Will China join forces against TPP?(RT)
https://www.rt.com/business/318012-china-us-trans-pacific-partnership/
①TPPは明らかに中国を排除する目的の経済同盟である。オバマは『世界経済のルールを中国などに作らせるわけにはゆかない』と露骨だ。

②TPPはBRICSと拮抗する経済同盟でもある。TPP国のGDPは世界の40%弱であるが、既に曲がり角を曲がった国(日米)が主要国であり、BRICSは現在の30%が2040年には45%に達すると予測されている。

③TPP加盟国の中でアジアのシンガポール、マレーシア、ベトナムブルネイは中国とのFTAで二股をかけており、経済の半分を中国に依存している。彼らは米国への輸出の増加だけを期待しているのだ。だが、中国から部品を輸入して組み立てた製品は米国には売れなくなる。日本は輸入が少ない。

④南米は分断された。TPPに加盟するチリとペルー対南米経済機構に加盟するアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイウルグアイベネズエラである。TPPのチリとペルーは中国から部品や原料を輸入して組み立てて輸出することができなくなる。最近対中貿易が急増しており困惑するだろう。

⑤中国はEUとのFTA交渉を加速させるだろう。中国はまたシルクロード経済ベルト(一帯一路)に鉄道網、高速道路網、送電網、石油ガスパイプライン、港湾設備などのインフラを建設し、多数の工業団地を新規に開発するだろう。共同体になるASENはそれによって再び成長が可能になる。

⑥一帯一路はユーラシア大陸全体を、内陸部も沿海部も、インフラ網で接続する。中央アジアは千年の眠りから覚め成長を開始するだろう。インドもパキスタンもアフガンもイランも接続され、新たな成長の機会に恵まれる。

⑦それらをロシアと中国がサポートするが、基盤はBRICSと上海機構(SCO)およびユーラシア経済体(EEU)である。

※このRTの記事タイトルは「中国もTTPに加盟するの?」ですが、加盟の必要なしと割り切った記事です。私個人は、中国と韓国がTPPに加盟し、そして一挙に拡大する可能性もあると考えます。中国のアジア投資銀行AIIBに英独仏伊が加盟したのと同じ現象が起こり得るからです。

理由;
❶年末にASEANは「共同体」になる。TPPはその一部の国しか含まず、ASEAN共同体内では機能不全に陥るから柔軟な見直しが行われる。

➋日米のASEAN投資は製造した製品を中国に輸出することで成り立っている。それが中国の内需経済移行による成長率6〜7%への減速で打撃を受け入ている。そこから回復させる経済力もアイデアも日米には無い。ASEAN共同体は中国の「一帯一路」による再成長しか見込めず、中国に縋る。

➌TPP規約には「国営企業の不公平を是正」が含まれるが、中国の主力企業はほぼ全て国営企業で、中国の加入は永久に不可能(産経)と喜ぶ向きもある。だがベトナム共産党一党独裁であり国営企業の国である。そして中国の国有企業は上場が進んでおり、ベトナム同様、形式上の問題はない。

➍中国自身がTPPに加わる気になるかどうかの問題だけなのだ。それはジョセフ・ナイも人民日報に明言している。中国の思案は、TPPに加入してTPP内部の改革を進めるのか、ユーラシアの包括的自由貿易圏の構築に専念し、TPPはあと併合するか、の選択だけである。どちらでも構わないが。


………(3) 米大統領予備選………

◆Joe Biden's secret weapon against Hillary Clinton? Honesty(WP)
http://www.washingtonpost.com/news/the-fix/wp/2015/10/07/joe-bidens-secret-weapon-against-hillary-clinton-may-be-honesty/?postshare=6251444238813112
①フロリダ、オハイオペンシルバニアという大票田で大統領候補に対する「誠実で信頼に値する」評価の世論調査

②バイデンが1位で65〜71%が信頼すべき人物と評価
③ヒラリーは最下位で32〜34%からしか評価されなかった
④バイデンになにかのきっかけがあれば、前回オバマがヒラリーを逆転したことが再現される可能性がある
社民主義のサンダースや穏健中道のカールソンもバイデンに近い評価

・米国社会は虚言と破壊工作にまみれたタカ派ネオコンの政治とその財政負担に疲れ果てている。ネオコン官僚は内戦を煽り、米国をも泥沼に陥れた。もうこりごり。優しく親切で誠実な、信頼に値する人が大統領になってほしい。