二種類の倫理観;安倍のスピーチライターと島田雅彦さんの平和憲法

※敬称略。◆は報道、①〜はその要点

安倍の米議会演説原稿は五輪誘致演説と同じスピーチライター作。この男は元日経記者で、金のためならなんでもするか、それとも基本的な認識力が不足している方らしい。「おもてなし」とかもこの男の発想なら頷ける。この言葉は元来対価を要求しない奉仕を喜んですることをさすからだ。

だから、米議会は、二重三重に喜んだ。重要な外交を自国語ではなく米語をした、そのスピーチは五輪誘致合戦の演説並み過剰サービス精神で横溢し、とどめは、これで米軍は予算3割を削減しても、安倍がその穴埋めをする約束を米国議会でおこなった・・・。完全に阿呆間抜けの類だ。

オバマは大いに喜んだがそれも刹那で終わった。2週間前に国務省次官補を北京と韓国に派遣し、安倍演説予定原稿を見せて、事前了解を取り付けようとしたが、中国は拒否していた。それを無視してもオバマは泥沼の軍事外交を安倍の日本に押し付けたかったのだろう。

朝日記事も「積極的平和主義を標榜し、集団的自衛権行使の制限撤廃を米議会に約束したからには、世界の殆どの軍事紛争が自衛隊戦闘の対象になる、歯止め無き時代に突入した」と書いている。これが朝日の限界なのだろう。明確に批判すれば安倍官邸の意向を受けた自民党から吊し上げだから。

その点で、島田雅彦氏の寄稿は全文無駄なく、誤解の余地もない表現で批判している。私の悪文をもって島田雅彦さんの寄稿を要約することに躊躇するが、敢えて試みようと思う;

・戦後日本が復興し、外国人が日本人に対して抱く好印象もまた、平和主義を貫いてきたことに由来する。「おもてなし」に象徴される「優しい日本人」のイメージは、現行憲法によってもたらされたのだ。

自民党による改正案も改正理由の説明も、「戦後レジームからの脱却」というような政治方針も全て支離滅裂である。安倍は日米安保に縋りつくが、その条約が日本に再軍備を促し、憲法と矛盾する事態を招いた元凶であり、日米安保憲法の上位に置く政治方針を生み出したのは安倍である。

・対米従属派が嫌う憲法戦争放棄は、昭和天皇を免責し天皇制を残す交換条件だった。昭和天皇は勃発した冷戦を利用して責任を逃れたが、軍国主義の台頭を防ぐことが占領時代の最優先だったし、国民の平和への希求とも呼応し、「戦後レジーム」になった。そこからの脱却とは、戦前回帰しかない。

・「自虐史観からの脱却」を主張し、東京裁判を批判し、歴史解釈で中韓と対立する時だけはナショナリストの面目を保てると思っている。政権批判する人を売国奴呼ばわりするが、米国の利権を守る官僚や御用学者に焚きつけられ、日本を米国に安売りする人々のことはどう呼んだらいいのだろう?

自民党憲法改正案と有事法制国家総動員体制を準備している。権力が憲法を超越して、国民に戦時総動員を強制する権限を持たせようとしているのだ。自衛隊国防軍と呼び、内閣が緊急事態と認定すれば公共の福祉や、国民の権利など蹂躙され、全国民を宣戦布告なき戦場に駆り立てる。

・ほぼ一党独裁体制、反中ナショナリズムを焚き付ければ、大政翼賛ムードの世論もそれを容認するかもしれない。いま、国民は自問すべきではないか?
「現行憲法に忠実に政治を行うことがそれほどナンセンスなのか?」
「日本が直面する現状と現行憲法は、耐え難いほどにかけ離れているのか?」。

憲法は日本人の倫理経典だ。政治的横暴、権力濫用、人権侵害から国民を守ることが謳われ、それは我が国が他国から信用されるに足る国家である宣言であり、暴力の連鎖を断ち切る誓いでもあるからだ。自衛隊の海外派兵や米軍の後方支援は違憲であり、改憲は日本の自殺行為だ。

・米国は日米同盟を継続し、中国封じ込めに日本を最大限に活用する。 日本の中国に対する不安を払拭するナショナリズムを煽り、日本により大きな役割を担わせ、米国の防衛費支出を軽減させる。安倍政権は「積極的平和主義」をかざすが、その実態は米国の軍産複合体を支えるカモである。

・しかし、米国が大規な軍事行動を起こす可能性は非常に低い。領土問題で「固有領土」を認めず「実効支配」だけを拠り所とする米国では、「尖閣主権」での中立を米国憲法が要求するからだ。尖閣有事の際も米軍を出動させないかもしれない。

・それに、米国が中国に敵対すれば、財政破綻世界恐慌の引き金になるし、核兵器を突きつけ合うようなことも抑止力にもならない。米国と中国が世界経済の安定を最優先し、軍事的緊張の緩和に努力すれば、日米同盟の強化は不要。それは安倍にとって悪夢だろうが、この未来予測がより現実的だ。

・米国は軍事的政治的圧力を意図的に後退させ、地域のことは地域に任せ、中国と周辺国が対立した際に限り仲裁役を果たすという選択である。 いずれにせよ、日本がアジア太平洋地域で軍事的に勝利を収める可能性は全くない。

イラクやシリアの状況を見れば、がむしゃらに自衛隊を紛争地域に出兵させる頭からは、暴力の果てしない連鎖が広がることが一目瞭然である。戦争は原発にも似て、莫大な負の遺産を残す。好戦的な政治家たちを止めなければ、私達だって「国家自殺を幇助」する罪をかぶることになる。

・9条を維持しさえすれば、戦争放棄の原則に回帰できるし、日米同盟を再考し中立主義と多国間安全保障の構築など政治的選択の幅を広げられる。現行憲法ユートピア的理想でも、過去の遺物でもなく、日本が歩むべき未来に即した極めて現実的な指針たり得ている。(島田雅彦さん寄稿の要約)


………………(参照記事)………………
◆(日米のゆくえ 首脳会談を終えて:上)安保、負担共有求める米(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11734824.html?ref=pcviewer
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11734771.html?ref=pcviewer
①安保で負担を他国に求める米国に、「積極的平和主義」を掲げる安倍政権が呼応、首相も「日米同盟はアジア太平洋地域のみならず、世界の平和と安定になくてはならない」と応じた。『歯止めの見えない時代』を迎える。

②米国は「パートナーにも負担を期待している。同盟は双方向だ」(ライス大統領補佐官)と、「負担」を求める。日本の「積極的平和主義」に基づく世界規模での自衛隊の役割拡大は、米国にとって『渡りに船』。『3割予算削減』を進める米国防総省高官は「日米軍事協力の地理的制約を取り払った」と歓迎。

③『後方地域支援』に限定されてきた自衛隊の制限が撤廃され、『日本周辺』とされた米軍支援も世界規模に広がった。『日本が直接攻撃』を受けなくても、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態なら地理的な制約なく協力と明記された。海外紛争の多くがそれに当たる。

④だがオバマ氏の中国への視線は日本と異なる。共同会見で『中国の平和的台頭を歓迎する。日米同盟と同様、中国軍との協力強化も模索する』と強調した。経済で世界第2位の中国は無視できず、世界の紛争解決で中国との連携不足で失敗続きの泥沼に陥っているからだ。地球温暖化では協調して成功。

⑤日本の打診を拒んできた米側も、尖閣防衛の日米共同作戦計画の本格的策定に入るものとみられる。しかし、尖閣をめぐる日米の共同対処は日本有事の際に限定され、しかも一義的には自衛隊が対処すると明記されており、米軍が関与するかは不透明なままだ。

⑥2+2の記者会見で中谷防衛相が「南シナ海をめぐる問題は日米や地域共通の関心事項」と踏み込んだ。東シナ海への米側の関与を引きつけたいとの思惑がにじむ。

防衛省内には「中国を東シナ海南シナ海の二正面作戦に巻き込み疲弊させる」(統幕幹部)との声がある一方で「東シナ海の監視で精いっぱい。南シナ海に派遣するには整備や給油のための空港や港湾が必要で現実的ではない」(防衛省幹部)との見方も強い。

◆(寄稿)憲法という経典 作家・島田雅彦(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11734728.html?ref=pcviewer
①日本が他国の戦後復興、人道支援に貢献し、「世界の赤十字」たらんとしてきたことで獲得できた世界的信用は大きな財産。外国人が日本人に対して抱く好印象もまた、平和主義を貫いてきたことに由来するだろう。「優しい日本人」のイメージはおそらく、現行憲法によってもたらされたに違いない。

②敗戦後70年が経過して、自民党憲法を改正することで矛盾解消を図りたがっているが、自民党による改正案も改正理由の説明も、さらには「戦後レジームからの脱却」というような政治方針も全て支離滅裂である。

③1951年、日米は旧安保条約を締結するが、アメリカが出した条件は、日本の独立後も占領期と同様に「米軍に基地を提供させ続けるが、米軍は日本防衛の義務はない」とするものだった。この不平等を是正するために、再軍備をした。

改憲の理由として自民党が掲げているのは、現行憲法は連合国軍の占領下で同司令部に押しつけられたものであり、国民の自由な意思が反映されていない、という主張だ。

⑤この押しつけ論が出てきたのは、自衛隊が発足し、アメリカが日本を極東における反共防波堤に仕立てるべく再軍備をさせるようになった頃、つまり1954年あたりからだ。自衛隊憲法の矛盾はアメリカの政策転換に起因するのである。

再軍備をした日本は周辺有事の際は集団的自衛権を行使して、アメリカを守るという提案を55年にしたことがある。その交換条件として米軍の撤退を要求する構想もあった。

⑦日本が集団的自衛権の行使を主張するのは60年ぶりというわけだが、現政権の頭には「米軍撤退」の4文字などなく、日米同盟の強化しか考えていない。自民党が沖縄に冷淡な理由もここにある。

⑧現行憲法を押しつけだからといって改めようとするくせに、同じ押しつけである日米安保条約は頑なに守ろうとする。ほとんど日米安保憲法の上位に置こうとする政治方針と映る。

⑨唯一、「自虐史観からの脱却」を主張して、東京裁判を批判し、歴史解釈で中韓と対立する時だけはナショナリストの面目を保てると思っている。それは外交も経済もアメリカに丸投げしている現状を目立たなくさせるパフォーマンスにすぎない。

⑩彼らの支持者の一部は、政権を批判する人を一方的に売国奴呼ばわりするが、アメリカの利権を守る使命を帯びた官僚や御用学者に焚きつけられ、日本をアメリカに安売りする人々のことはどう呼んだらいいのだろう?

⑪対米従属派が嫌う憲法9条戦争放棄規定は、昭和天皇の戦争責任を問わず、天皇制を残すことの交換条件だった。日本での軍国主義の台頭を防ぐ規定をつけることは占領時代にあっては最優先の案件だったし、国民の平和への希求とも呼応していた。

⑫現天皇が折々に護憲と平和への希求を明らかにされるのは、この事情も踏まえておられるからだろう。護憲と平和主義は吉田茂の「軽武装、経済重視」の路線とともに「戦後レジーム」になったわけだが、そこから脱却しようとすれば、戦前に回帰するしかない。

自衛隊国防軍と呼び、「主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し」と自民党の改正9条案に記しているが、自民党が作った有事法制でも、国民が国の安全保障に協力する責務を明記しているので、戦時中と同様に有事の際は国民も動員される。

⑭また現行憲法にはない緊急事態についての条文を加え、内閣が法律と同一の効力を有する政令を制定できるようにし、緊急事態時に国家総動員体制を取りやすくしている。

⑮ほかにも「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という部分を「自衛権の放棄」と捉え、削除し、人権規定においても、現行憲法で「公共の福祉」とある部分を「公益及び公の秩序」に置き換えて、それに反する自由と権利を制限している。

⑯しかも「公益及び公の秩序」の定義は政府が勝手に決められるというのだから、改正案は国民主権を謳いながらも、思いきり国家主権的である。

ナショナリストたちが国家を私物化することを奨励するようなものだ。国民を国家の暴力から守る憲法から、国民を戦争に駆り出せる憲法へ。これは明らかに「憲法改悪」である。

⑱ほぼ一党独裁体制の下、迷走する野党からの賛成票を上乗せし、改憲発議要件の緩和に成功すれば、改憲は一気に進む可能性もある。反中ナショナリズムを焚き付けられ、大政翼賛ムードに導かれた世論もそれを容認してしまうかもしれない。

⑲国民は自問すべきではないか? 現行憲法に忠実に政治を行うことがそれほどナンセンスなのか? 日本が直面している現状と現行憲法は、耐え難いほどにかけ離れているのか?

⑳確かに憲法と歴代政権の政治決定に齟齬はあるが、国民はその時々の政治情勢とは別に、憲法を平和の誓いとして受け継いできた。聖書がキリスト教世界の共通の倫理である博愛、寛容、自由の拠りどころであるように、憲法も日本人の倫理の経典であり続けた。

憲法には政治的な横暴、権力の濫用、人権の侵害から国民を守ることが謳われているが、それは我が国が他国から信用されるに足る国家であることの宣言なのであり、暴力の連鎖を断ち切る誓いでもあるのだ。そして、何よりも他国の戦争に巻き込まれないための保険として、機能してきた。

憲法戦争放棄を謳っている限り、自衛隊の海外派兵や米軍の後方支援に踏み切ること自体が違憲である。だからこそ政権の暴走は抑止されているのだ。政権の暴走にお墨付きを与えるような改憲は日本の自殺行為に等しい。

憲法武力行使の歯止めになる。過去にアメリカから、集団的自衛権を行使し、ベトナム戦争に参戦せよと求められても、断ることができたし、湾岸戦争でも巨額の軍事援助はしたものの、かろうじて武力行使や兵器の輸出を免れることができたのだった。

㉔9条を維持しさえすれば、いつでも戦争放棄の原則に回帰できるし、中立主義や日米同盟の再考、多国間安全保障の構築など政治的選択の幅を広げられるのだ。

㉕ 現状維持の線でいけば、アメリカは日米同盟を継続し、中国の封じ込めに日本を最大限活用することになる。 日本国民の間に広がる中国に対する不安とそれを払拭しようとするナショナリズムを利用し、日本により大きな安全保障上の役割を担わせ、アメリカの防衛費支出を軽減させる。

㉖現政権はその期待に応え、「積極的平和主義」をかざし、日本の安全保障環境を良好にすべく努めようとするが、その実態はアメリカの軍産複合体を支えるカモになることである。

テポドンひとつ迎撃できないミサイル防衛システムを巨額で導入させられたり、沖縄の米軍基地の移転にやはり巨額の支出をさせられたりするだけだ。

㉘しかし、アメリカがアジア太平洋地域で大規模な軍事作戦を展開する可能性は非常に低い。領土問題で中立の立場を取っていることもあり、尖閣有事の際も米軍を出動させないかもしれない。

アメリカが強硬姿勢で中国に敵対するならば、財政破綻世界恐慌の引き金になりかねないし、冷戦時代のように互いの中枢に核兵器を突きつけ合うようなことはしないだろうからだ。

アメリカと中国が世界経済の安定確保を最優先し、軍事衝突などを極力避け、常に緊張緩和に向けた努力をすれば、日米同盟を強化する必要はなくなり、安全保障の新秩序を構築することになるだろう。こちらの未来予測の方がより現実的な気もする。

アメリカは軍事的、政治的プレゼンスを意図的に後退させ、地域のことは地域に任せるが、中国と周辺国が対立した際に、仲裁役としての役割を果たすにとどまる。

㉜いずれにせよ、日本がアジア太平洋地域で軍事的に勝利を収める可能性はほとんどないのだ。

㉝ 現政権は、軍需産業を拡大し、日本の権益や邦人の生命、財産を守るという名目で自衛隊を紛争地域に出兵させることしか頭にないようだが、外交努力を怠り、安易に武力行使をすれば、そこから暴力の果てしない連鎖が広がることは、イラクやシリアの状況を見れば、一目瞭然である。

㉞戦争は原発にも似て、莫大な負の遺産を後世に残す。好戦的な政治家たちは戦争責任など取る気はさらさらなく、自分たちを支持した国民が悪いと開き直るだろう。彼らが自殺行為に走るのを止めなければ、私たちだって自殺幇助の罪をかぶることになるのだ。

㉟現行憲法は単にユートピア的理想を謳ったものでも、時代の要請に応えられなくなった過去の遺物でもなく、日本が歩むべき未来に即した極めて現実的な指針たり得ている。