安倍が米議会で演説

※敬称略。◆は報道、①〜はその要点

◆安倍首相:「大戦、痛切に反省」 米議会演説(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150430k0000m010117000c.html
先の大戦に「痛切な反省」 安保法制「夏までに成就」 安倍首相、米議会で演説(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731532.html?ref=pcviewer
①『戦後の日本は先の大戦に対する痛切な反省を胸に歩みを刻んだ。自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。これらの思いは歴代首相とまったく変わらない』。

②『(集団的自衛権の行使容認を含む安全保障法制の整備によって)日米同盟はより一層堅固になる。関連法案の成立をこの夏までに必ず実現する』と約束。

③『(真珠湾などの激戦地を挙げて)歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものだ。対米開戦は過ちだった(米国に宣戦布告しなかったら中国を降伏させていただろう)。熾烈に戦い合った敵は心の紐帯が結ぶ友になった』。

④アジアに対する過去の植民地支配への「おわび」や慰安婦問題には直接触れなかった。一般論として『紛争下、常に傷ついたのは女性だった。わたしたちの時代にこそ、女性の人権が侵されない世の中を実現しなくてはいけない』とは述べた。

⑤『米国が掲げるアジア重視の「リバランス政策」を支持する』。そして『太平洋からインド洋にかけての海を、自由で、法の支配が貫徹する平和の海にしなければならない』との主張。

⑥海洋進出を強める中国を念頭に、
(1)国家が何かを主張する場合は国際法に基づくこと、
(2)武力や威嚇を自己の主張のために用いないこと、
(3)紛争解決はあくまで平和的手段によること−−という3原則を呼びかけた。

⑦『安保法制の整備が実現すれば、日本は危機の程度に応じ、切れ目のない自衛隊の対米協力がはるかによくできるようになり、地域の平和のために確かな抑止力をもたらす。国連平和維持活動(PKO)など、日本は世界の平和と安定にこれまで以上に責任を果たしていく』。

⑧『国際協調主義に基づく、“積極的平和主義”は日本の将来を導く“旗印”であり、日米同盟を“希望の同盟”と呼ぼうではないか』。(安倍米議会演説)

⑨朝日の論説副主幹・立野純二氏の「対米・対アジア、二つの顔」と題した論評が1面に掲載されている。優れた論評であると思うので紹介します;

・「希望の同盟へ」と題した安倍首相の演説は予想通り、「未来志向」の言葉に満ちている。「侵略」も、「おわび」も、ない。そこから強くにじむのは、前世紀の日本の過ちが残した歴史のくびきを解こうとする安倍氏のかたくなな執念である。

・日米はともに「冷戦に勝利した」。もはや戦勝国でも敗戦国でもない、と言いたげだ。だが、その試みは逆に戦後70年を経ても変わらぬ日米の構図を際だたせた感がぬぐえない。米国が求める日本の姿を懸命に演じる関係である。

・外交辞令に富む演説は、米議会には受け入れられるだろう。だがそこには、米国向けに心を砕く首相と、アジア向けには時に冷淡にも振る舞う首相の二つの顔の落差が浮かび上がる。

・かつて最も強い日米関係と言われたのは、小泉純一郎首相の時である。だが、当時は靖国神社参拝に米議員が反発し、両院演説の場は与えられなかった。同じ参拝をした安倍氏を厚遇したのは、米国でも中国への警戒感が高まっているからだ。

・安倍政権もそこを読んで、米国が手放しで評価するカードを切った。平和憲法の縛りをほどき、米軍と共にする行動の幅を広げる。日本の法改正が後回しになろうとも、対米関係の強化を優先した。

安倍氏の祖父、岸信介首相の姿は、今回の安倍氏と重なる。当時の「反共」はいま、「対中国」に変わったが、対米関係を偏重する姿勢に変わりはない。

・対米関係というレンズを通してしか世界を見ない日本外交こそ、「戦後レジーム」ではないのか。侵略など国際的に広く共有された歴史認識への言及をひたすら避ける安倍氏の演説は、そんな皮肉を感じさせる。(朝日の論説副主幹・立野純二氏)

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先の大戦に対する安倍の痛切な反省の実態な何なのか? 「中国を降伏させることができただろうに、中国に軍事進出した日本を妬む米英の経済制裁に業を煮やして宣戦布告するという過ちを犯して、結局中国にもソ連にも敗戦したことにされたしまった」という反省に過ぎないだろう。

「日本の行いがアジア諸国民に苦しみを与えた事実から目を背けるべきでない」と、まるで評論家気取りであり、八紘一宇という希望に満ちた繁栄の体制を目指しながら、米英との戦争を始めたが故にアジア各国を巻き添えにしてしまったなどと、ひたすら米国との戦争だけを失敗と主張しているのと同じ。

「熾烈に戦い合った敵は心の紐帯が結ぶ友になった」などと悦に入っているが、日本軍死者240万人のうち140万人は餓死および栄養失調による病死。日本軍は密林を彷徨、米軍も不必要に日本軍を相手にしなかった。たまたま正面から遭遇したたった2〜3の戦場だけが熾烈だったのだ。

安倍は明らかに日本国憲法や日本国会よりも米国政府を上位においている。「安保法制を夏までに成立させる」と米国議会に「約束」する首脳が世界のどこに存在するのか? いや、日本には存在したと悲しくなる。国際連盟を創立させた米国のウイルソン大統領も米国議会の批准を約束しなかった。

たとえ自信があっても、議会にかかわることを外国に約束することは、民主主義の原則を破壊している。言い換えると、日本の議会制度を米国議会に売り渡したのと同じである。その点でまさに「売国奴」の資格を得たといえる。

アジアに対する過去の植民地支配への「おわび」などは無かった。安倍にとってそれは当然なのだろう。安倍は日本の植民地支配を「八紘一宇」の理想郷として理想化しているからだ。日本が植民地を米英から守れなかった反省はするが、植民地支配そのものは素晴らしい風土をアジアに醸成するはずだったと。

また、慰安婦性奴隷問題など取るに足りないと安倍は思っている。「いつのどこの国の戦争でも慰安婦は不可欠だった」から日本だけ特有ではないなどと反論してきた。それだけではない、「八紘一宇」の理想社会を目指した日本の植民地政策を貶す目的で韓国が慰安婦問題を捏造し騒いでいると思っている。

一般論として『紛争下、常に傷ついたのは女性だった』とは述べたというが、戦時下に女性が受けた傷とは、夫や親を失って食うための職業として慰安婦商売に入らざるを得なかったという傷に矮小化している。

そして、犯罪の矮小化だけでなく、唐突に未来志向を述べ始める。『わたしたちの時代にこそ、女性の人権が侵されない世の中を実現しなくてはいけない』と。これは安倍や外務官僚が問題をすり替える常套手段。国連が女性の活躍を訴える運動をしているから、それに乗れば民主的に見られるという打算だ。

安倍が採用した女性閣僚級を見れば、安倍が守りたい女性の人権の中身を窺い知ることができる。特攻に志願する子供を育てた女性は立派、東条英機などは戦争犯罪人にされた「尊い殉国者」、やはり日本は「八紘一宇」アジアの尊敬される盟主でなければならない・・・などという女性たちの人権である。

「日本経済を追い抜いたにっくき中国の息の根を止めるために、オバマ大統領閣下のアジア回帰は大歓迎だ。中国海に進出しようとする中国を懲らしめなければならぬからだ。太平洋からインド洋にかけての海を、自由で、法の支配が貫徹する平和の海にしなければならない」と勇ましいのか悲壮なのか。

「それには日米の海軍力がものをいう。しかし、米国は中国と一戦を交えたくないだろうから、国際法を解釈変更し、武力による威嚇は国際法違反だと非難の渦を湧き起こそうではないか」・・・

などと露骨な中国非難を米国議会のタカ派の前に浴びせかけて大喝采を夢見ていたのだとしたら、原稿を書いたであろう、官邸詰め外務省高官の知性はとても低レベル。「紛争解決はあくまで平和的手段で」と憲法前文をぱくっているが、弾丸を装填した砲艦の上に立って話し合いを要求している。

そして安倍司令官はご機嫌だ。『国際協調主義に基づく、“積極的平和主義”は日本の将来を導く“旗印”である。そのために日本は切れ目のない自衛隊の対米協力を実現させる。戦っても負けると中国などに認識させるほどの軍事的抑止力が間もなく実現するだろう』・・・
・・・『日本は米国と共に世界の平和と安定を守る世界の軍事警察国家になる。これからは、日米同盟を“希望の同盟”と呼ぼうではないか』と理解できる演説の締めくくりであった。

反省「的」部分は誠意のない嘘、積極的に米軍などの戦闘に参加する話は、真に迫る本気度200%。あほらし。この首相の存在自体が憲法違反だろう。

安倍は心の底まで「戦後冷戦レジーム」に染まりきっている。祖父岸信介の「反共」が安倍晋三では「反中」に変わっただけである。中国の台頭に米議会もオバマ大統領も脅威を感じていて、中国の怒りに神経質をとがらせていたという。それでもオバマ大統領は安倍に最大限の利用をさせた。

習主席と会談してたった1週間後には、米国議会で真っ向から対立するはずの強烈な反中演説をぶち上げた安倍という男の言動は全く信用できない。変心ではないのだ。習主席には媚びを売り、米国議会では反中扇動を行う男なのだ。

それにしても、ここまで安倍に利用されたオバマ政権は習近平政権に対して平身低頭・言い訳に継ぐ言い訳を余儀なくされるだろう。オバマ政権側は、安倍を変身させた、利用したと弁明するだろうが、安倍イデオロギーは勿論、利用のつもりで迎合したオバマ政権の態度も世界には全く通用しないからだ。

中国をして心の底から湧き出るような抑えきれない怒りの発作を起こさせ、オバマ政権はそれに悩まされるかもしれない・・・いや、中国は「一帯一路」経済ベルト建設で超多忙になった、そんなことを考える暇など無いと言って無視するだろう。

◆首相:「日米で成し遂げる」TPPの重要性強調 議会演説(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150430k0000m020120000c.html
①『日米がリードし、いかなる国(=中国)の思惑にも左右されないフェア(公正)で、ダイナミックで持続可能な市場を作り上げなければならない。TPPには経済的利益を超えた長期的な安全保障上の意義がある』。

②中国が設立を主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が57カ国もの創設メンバーを集め、中国への警戒感が米議会内で強くなっている。

③TPP推進派のポール・ライアン下院歳入委員長(共和党)は「日米が手を組めば、中国の弱いものいじめや、アジア太平洋地域の主導権を握ろうとする動きに対抗できる」との声明を発表。中国への対抗心を煽っている。

安倍は中国に対抗・対峙するためにTPPに縋る。安倍演説をより直截的に言い換えると「中国などにリードさせてはならない。日米がリードしなければ、経済発展だけでなく軍事的安全保障も達成されない」となる。

また、「日米だけがリードすれば、フェアでダイナミックで持続可能な市場ができるが、中国に左右されるなら、不公正で硬直した持続不可能な市場にしかならない」とも言い換えることができる。

事実は全く異なる。「日米だけがリード」した市場経済は不公正で硬直した持続不可能なことが、今現在実証されつつあるではないか。日本政府と企業はASEANの各地に工業団地を形成するが、点々と荘園状に散在し、現地経済と密接に結びついて総合的な経済構造を構築しないきらいがある。

そこを中国が突いて、「一帯一路」経済ベルト構想にまとめた。これなら、各国、いやASEAN共同体が工業団地間を有機的に結びつけて経済効率を上げ、市場規模を自ら拡大させる環境になる。TPPはASEAN内部の有機的結合など無関心で、全ては米国と日本に直結させる八紘一宇のなのだ。

そのTPPなる経済体制を政治軍事関係の道具に利用すればまさに「八紘一宇の完成」であり、いみじくも安倍晋三がそれを強調してやむことがない。「TPPは貿易協定であり、日米が中国に軍事的政治的に対抗するための『偽装された地政学的協定』であってはならない」とFTが社説で警告している。
http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2015-04/29/content_35451289.htm

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◆沖縄知事、日米首脳の辺野古確認に「強い憤り」」(News i – TBS)
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2480989.html
①「辺野古移設が普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策と再確認したことに強い憤りを感じる」(沖縄県 翁長雄志知事)

②翁長知事は5月下旬にもアメリカを訪れ、辺野古移設に反対する今の沖縄の現状や県民の声をアメリカ政府に直接伝える考え。

防衛省辺野古沖に投入した大型ブロックによってサンゴが損傷している問題で、沖縄県は、調査を実施できるようアメリカ軍に許可を求めました。翁長知事は、調査の結果によっては、埋め立てに必要な岩礁の破壊許可そのものの取り消しも検討するとしています。

◆日米首脳共同会見:記者の質問、ボルティモア、中国に集中(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150430k0000m030059000c.html
日米関係そっちのけでボルティモア暴動問題の質問に滔々と持論を展開したオバマ。日米同盟にも安倍の歴史認識にも関心はなく、安倍に迎合する米国が中国の怒りを浴びる心配ばかり。


◆「後悔したが謝罪せず」 中国や韓国のメディア反発
http://5.tvasahi.jp/000049489?a=news&b=ni
「謝罪どころか自画自賛だけ」「慰安婦には全く言及していない」「韓国と中国の成長を手伝ったと強弁した」など

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◆日米首脳共同会見の要旨(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/ASH4Y53Y4H4YUTFK002.html
◆(時時刻刻)戦後の日米和解、強調 安倍首相、米議会両院で演説(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731552.html?ref=pcviewer
◆日米、同盟の意義アピール 首脳会談・会見、何が語られたか(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731494.html?ref=pcviewer
◆Q.米議会両院会議で演説、なぜ実現? 歴史発言含め安倍首相に関心(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731499.html?ref=pcviewer
◆首相「辺野古、揺るがぬ」 オバマ氏「負担軽減に協力」 日米首脳会談(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731506.html?ref=pcviewer
◆「戦争巻き込まれる」はレッテル貼り 安倍首相、日米共同会見でも持論(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731507.html?ref=pcviewer
◆安倍首相訪米、西海岸でデモ 中国・韓国系住民抗議(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731548.html?ref=pcviewer
◆安倍首相の米議会演説(全文)1(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731575.html
◆安倍首相の米議会演説(全文)2(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11731572.html