AIIBに手を突っ込む日本の第2ラウンド

…………(1)AIIBはADBとの協調融資に応じなければ離陸不可能と宣伝する日本…………

南中国海領土問題で日本と同盟し中国対峙を続けているはずのフィリピンとベトナムを含めて全てのASEAN国が昨年、中国が提唱する「一帯一路」経済ベルト建設を加速するためのAIIBに参加し、更にG7の過半数国とBRICS国も3月末に参加表明した。更に正式加盟承認まで公表しない国もあるという。

AIIB参加表明国は52国と台湾地域と多さとなり、日米だけが取り残され孤立した。日米の孤立は米国が拒否権を持つ世界銀行IMFアジア開発銀行(ADB)の融資が細り、融資済み資金の回収にも暗雲が立ち込める。

フランスが専務理事を送り込んでいるIMFは中国主導のAIIBによる「一帯一路」経済ベルト建設に全面的賛成を表明し、米国議会が批准しないIMFへの中国などBRICS国の出資増加(理事会にも参加)と人民元基軸通貨に追加して人民元で融資し人民元で決済する道を開くべきだと示唆した。[01]

世界銀行には米国が総裁を送り込んでいるが、理事会の大勢はIMFと同じ見解。キム世銀総裁は「一帯一路経済ベルト建設は世界経済を再生させる。世銀はAIIBと協調し、喜んで新経済ベルト建設に参加する」と述べた。[02]

米国が拒否権を行使して世銀とIMF人民元決済の導入を潰した。これで中国は内需経済に専念させざるを得なくなり成長の息の根が止まると踏んだが、米国は大失敗した。

そこで日本と米国は、AIIBに世銀・IMF・ADBと協調融資を持ち掛け、AIIBの審査基準をADBに一致させる戦略。その目的を成功させるために日本はAIIB創始国に参加表明した英仏独伊スペイン豪などとAIIB内同盟を組織する動き。これが日米の第2ラウンドなのだろう。見苦しいと感じる。

日本が主導するADBは、10年間で8兆ドルのアジアインフラ投資需要と予測した。これならAIIBの直接寄与は2%程度しかなく、世銀やADBの融資もほぼ同じであるから、必要資金の96%は民間金融が融資する。

そこでAIIBとADBの信用(格付)の差を大げさに差別すれば、AIIB融資案件には民間の融資が集まらなくなる。困るAIIBは日本のADBとの協調融資に乗らざるを得ないと目論む。そこでAIIBに対してADBと同じ融資審査基準を押し付けることができる、というものだ。

そうはうまくゆかないだろう。中国の銀行は2兆ドル程度の融資を表明した。中国と一心同体化した香港とシンガポールの民間投資機関も2兆ドル程度の資金を全世界から集めるだろう。もちろん日本や米国の民間金融も香港とシンガポールを経由した間接投資を行うだろう。

その結果、AIIBと中国・香港・シンガポールの民間金融で8兆ドルの半分を融資できることになる。残り半分を世銀とADBと日本の民間金融が融資することになるが、日本側の劣勢は否めない。

財務省はADBの経営が行き詰まりを懸念しだした。ADBの融資が先細り、融資済み資金の回収が滞る心配であり、それ以上に日米のアジアでの影響力が決定的に低下する恐れからであろう。財務省は中国に対して、AIIB創始国が正式決定される6月末までに日中財務相会談を提案している。[03]

財務省の目論みは先に述べたシナリオであり、ADBとの協調融資のためにはAIIBが厳格な理事会運営と融資審査基準を受入れるべきだと主張するのだろう。しかし非公式には、駆け込みで日本もAIIB創始国に参加を認めさせるのではないかとの観測も流れている。[04]

そんな流れは、積極的平和主義で中国包囲を構成し、中国経済を封じ込めるという失敗した外交基本方針に拘る外務省が抵抗している。岸田外相は「AIIB参加には1000億円単位の出資が必要(消費税を増税してまで、何十兆円もの国家融資を約束してきた地球儀外交が破綻する)」と言って参加に難色。[05]

産経は1800億円と報じているが、この金額には疑問がある。創始国が3倍に増えたから、資本金は昨年末での6兆円から12兆円に倍増されると中国が言っている。中国は4.5兆円出資するが日本も1.8兆円の出資が必要なはずだ。

昨年秋の創立決起会で出資割合は東アジア国が75%、その他国が25%で、各々の国のGDP比率で出資する規約が決議されているからだ。財務省筋の1800兆円というのは日本がアジアの国ではなく、その他の国扱いになると判断しているからだろう。

更に岸田外相は「中国主導の銀行であるから『ガバナンスに問題点』があると難詰した。しかし、財務省が私物化して日本政府要求を融資条件にしてきたアジア開発銀行ADBの姿勢にもガバナンス問題がある。黒田日銀総裁がADB前総裁だったから類推がつく。[06]

中国はそんなADBから拒絶され、AIIBを創立した。世界はそれを見ている。

(参照報道)
[01] インフラ投資、呼び水に=世界成長へ政策実行を−IMF報告書(時事)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201504/2015040700879&g=int
[02] アジア投資銀との連携協議=来週の春季会合で−世銀総裁(時事)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201504/2015040700878&g=int
[03] 3年2カ月ぶり日中財務対話、6月開催か AIIB議論(朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASH474GNDH47ULFA008.html
[04] 中国提唱AIIB 財務省審議会で議論(テレ朝)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000047950.html
[05] AIIB参加で「1000億円単位の出資が…」岸田外務大臣(テレ朝)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000047921.html
[06]中国主導銀:岸田外相「ガバナンスに問題点」(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150408k0000m010114000c.html


…………(2) 中国は「一帯一路」経済ベルト建設で日本逆包囲…………

AIIB創立でアジアとユーラシア大陸で経済開発の主導権を握った中国は、日米の第2ラウンドを跳ね返すためにも「一帯一路」経済ベルト建設で利益を享受するASEAN国との共同推進の場の設定を急いでいる。

それを中国は「メコン川流域国の運命共同体構築」プロジェクトと呼んでいる。タイ、カンボジアラオスミャンマー及びベトナムが参加し中国と共同作業が始まった。このプロジェクトは今年12月に創立されるASEAN共同体を離陸させる重要な推進役になる。[10]

また、フィリピンとベトナムは「一帯一路」経済ベルトの利益が、TPPよりも重視されるとの見解を露わにして、中国に擦り寄る姿勢を顕著にした。中国政府はベトナム共産党に呼びかけを行い、ベトナム共産党の阮富仲(グエン・フー・チョン)総書記の中国公式訪問を実現させた。これは歴史に残る。[11]

2013年6月に訪中して「中越包括的パートナ協定と海の国境問題共同解決条例等」を締結した国家主席の張晉創(チュオン・タン・サン)氏よりも共産党中央総書記の地位は高い。同じ共産主義国として中国はベトナムに開放政策の在り方の共通化が可能だと見ており、ベトナムもそれに異論は無い。

(参照報道)
[10] 王毅外交部長:メコン川流域国の運命共同体を共に構築(新華社
http://jp.xinhuanet.com/2015-04/07/c_134130601.htm?from=fetion
[11]【新華国際時評】中越関係が新しく素晴らしい春を迎えられるよう願う(新華社
http://jp.xinhuanet.com/2015-04/07/c_134130598.htm?from=fetion
ベトナム共産党中央の阮富仲(グエン・フー・チョン)総書記が中国を公式訪問する。これは中越両国の関係における重大な出来事だ。
②中国は「親和・誠意・互恵・寛容」の周辺外交理念を提起し、『シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動』を発表した。中国の周辺外交の大きな構造の中で、中越関係は重要な位置を占めている。
③世界の多極化や経済グローバル化が深く広く浸透し、国際構成と国際秩序の調整と変化が加速されている。中越はこの環境に適応し、協力を深め、手を携えて発展し、両国と両国人民の根本的利益に合致し、当地域の平和、安定、繁栄に有利だろう。
中越の間もなく行われるハイレベル会談は、今後の一時期における両国関係の発展の方向や青写真を計画し、両国の全面的戦略パートナーシップを強固にし、発展させることに対し重要な意義を持つ。中越関係が新しく素晴らしい春を迎えられるよう期待する。